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鬼軍曹・永瀬拓矢挑戦者(28)王将戦七番勝負で3連敗のあと2連勝! 第5局、渡辺明王将(36)に完勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月1日・2日。佐賀県上峰町・大幸園において王将戦七番勝負第5局▲渡辺明王将(36歳)-△永瀬拓矢王座(28歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 1日9時に始まった対局は2日17時50分に終局。結果は110手で永瀬挑戦者の勝ちとなりました。七番勝負はこれで渡辺王将3連勝のあと、永瀬挑戦者2連勝です。

 第6局は3月13日・14日、島根県大田市・さんべ荘でおこなわれます。

永瀬挑戦者、完勝で盛り返す

 渡辺王将先手で戦型は角換わりとなりました。

 最序盤の14手目。永瀬挑戦者は端9筋を突き、渡辺王将はそれを受けました。

永瀬「少し(自分の方に)主張があるのかなと思った」

 局後に永瀬挑戦者はそう語っています。序盤の端歩の突き合いがポイントになるとは、観戦者からすればなかなか意味がわかりづらいところです。しかし対局者の間では、そうした繊細な駆け引きがおこなわれているわけです。

 25手目。渡辺王将が桂を中段に跳ね出して、盤上は序盤から大きく動いていきます。永瀬挑戦者は手早く銀を繰り出して反撃。渡辺陣の左辺を押さえる形を作りました。

 盤面の左右で戦いが起こりそうなところ。両者はともに玉を中央5筋の二段目、「中住居」に構えます。

 45手目。渡辺王将は端1筋を突いてさらに動きます。永瀬挑戦者はその動きに対応しながら反撃。難しい中盤戦に入りました。

 53手目。渡辺王将は難しい選択を迫られます。終局後は「ここしかない」(渡辺)と詳しく調べられました。相手陣に角を打ち込んで成角(馬)を作る順は「感動がない」(渡辺)。ともかくも、左右で戦いが起こって、気になるのは玉の位置です。

渡辺「左辺を8八銀って(壁銀の)形で押さえられたあと、5八玉の居場所が・・・。左辺押さえられた段階では5八玉型でがんばれば、押さえられてもさほど、とは思ってたんですけど。そのあと、1筋と3筋に手をつけられて、玉のいい居場所がわかんなくなってしまって」

 渡辺王将は20分考えて、玉を一路左に寄せます。

渡辺「▲6八玉と寄るんじゃ失敗というか。7六歩の拠点が価値が高くなっちゃったんで。ちょっとそのあたりの指し方に問題があったかと思います」

 形勢が離れたというわけではありませんが、後手番の永瀬挑戦者がわずかにペースをつかんだようです。

 封じ手直前に両者が指すという駆け引きがあったあと、永瀬挑戦者が56手目を封じました。

 2日目、永瀬挑戦者の封じ手は予想の本命手でした。しかし渡辺王将の手は、すぐには盤上に伸びません。

渡辺「一晩考えたけれど思わしい手がなかった」

 形勢を悲観していた渡辺王将。ここから端歩に垂らされた歩を成り捨てる筋を見落とし、形勢を損ねました。

 永瀬挑戦者は、きれいに飛香両取りの技をかけます。

永瀬「少し指せていてもおかしくないかな、とは思っていたんですけど。ただ実際、なにかわからない気がしたので、難しいかなと思いながら指していました」

 永瀬挑戦者は形勢を楽観せず、慎重に時間を使って正着を重ねていきます。

 78手目。永瀬挑戦者は盤上中央、タダで取られるところに桂を打ちます。これも好手でした。

渡辺「▲5五桂は全然見えてなかったな。昨晩に比べたらチャンスがあるのかと思ってたけど、タダのところなので見えてなかった」

 渡辺王将も反撃して永瀬玉に迫りますが、あともうひと押しがありません。

 90手目。永瀬挑戦者は8筋の飛車を1筋へと大転回します。これが気持ちのいい決め手でした。前局に続き、永瀬挑戦者は飛車を大きく動かして勝利を呼び寄せたことになります。

 永瀬挑戦者が1筋に飛車を成りこんだのに対して、渡辺王将は1筋、2筋、3筋と、底歩3連打で粘ろうとします。さらには4筋にも底歩を打ちました。底歩4回はおそらく、珍しい記録でしょう。

 しかし永瀬挑戦者はあせらず、着実に渡辺玉に迫っていきます。

永瀬「最後は変な寄せをしてしまったような気がしたので。最後△8五金と打って形勢がいいのかな、と思いました」

 110手目。永瀬挑戦者は渡辺玉の上部から金を打ち、上下はさみ撃ちの形を築きました。渡辺王将は攻防ともに見込みがなくなり、そこで投了しています。

「次も教えていただけるので準備したい」という永瀬挑戦者。いつもながらの謙虚な姿勢ながら、3連敗のあと2連勝を返し、ミラクル実現に一歩近づきました。

渡辺「連敗になってしまったんですけど、また気を取り直してやりたいと思います」

 感想戦では、渡辺王将はひとしきりぼやく調子でした。

 両者の対戦成績はこれで渡辺王将14勝、永瀬挑戦者5勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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