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永瀬拓矢挑戦者(28)将棋界3回目の3連敗4連勝を達成できるか? 王将戦七番勝負第5局でリードを奪う

松本博文将棋ライター

 3月1日。佐賀県上峰町・大幸園において王将戦七番勝負第5局▲渡辺明王将(36歳)-△永瀬拓矢王座(28歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 今期七番勝負は渡辺王将3連勝のあと、永瀬挑戦者が1勝を返しました。

 将棋界の七番勝負では、3連敗後の4連勝は過去に2回しかありません。

 1度目は2008年竜王戦。シリーズを制した側が初代永世竜王となる歴史的な七番勝負で、渡辺竜王は最強の挑戦者・羽生善治名人(肩書はいずれも当時)を相手に将棋史上初の3連敗4連勝を達成しました。

 2度目は2009年王位戦。深浦康市王位が木村一基八段(肩書はいずれも当時)を相手に3連敗から4連勝を果たしています。木村現九段、悲願の初タイトル獲得はそれから10年先へと伸びました。

 永瀬挑戦者は将棋界3度目のミラクルを起こすことができるでしょうか。

 第5局は渡辺王将先手で戦型は角換わり。渡辺王将が早く桂を跳ね出して、序盤から戦いが始まりました。

 18時、封じ手番が決まる直前に駆け引きがあり、永瀬挑戦者が56手目を封じました。

 明けて2日目。立会人の小林健二九段が封じ手を開きます。永瀬挑戦者は56手目、相手の成桂を銀で取りかえします。これで桂交換が完了しました。

 永瀬挑戦者が成桂を銀で取り返すのは、ごく常識的な一手で、予想の本命です。しかし渡辺王将の手はすぐに盤上に伸びません。形勢容易ならずと見ているのでしょうか。

 57手目。渡辺王将は18分を使って4筋の歩を伸ばします。対して永瀬挑戦者は端1筋に垂らしていた歩を成り捨てました。これはうまい攻めの手。手持ちの角をいかして、両取りを含みにしています。

 現状は永瀬挑戦はがリードを奪ったのは間違いないようです。

 永瀬挑戦者はしばらく62手目を考えていました。次に渡辺陣に角を打ち込めば飛香両取り。気楽な観戦者にはそれでよさそうに見えますが、優勢になりそうな局面で慎重に考えるのが棋士の習性。いろいろな変化を読んでいたのでしょう。

 考えること21分。10時過ぎ、永瀬挑戦者は角を打ち込みました。渡辺王将はノータイムで飛車を逃げます。これは大変な辛抱です。

 将棋プレミアムで解説をしている阿久津主税八段は、8-2ほどの差がついていると見解を述べています。

 筆者手元のコンピュータ将棋ソフト(水匠3)では、評価値にして700点ぐらいの差がついています。形勢ははっきり、永瀬挑戦者よしです。

 勝負はもちろんまだこれから。しかし展開次第では、意外と早い終局もあるのかもしれません。

 年度末の3月。順位戦では永瀬王座が所属するB級1組もファイナルラウンドを迎えます。永瀬王座はA級昇級を果たすことができるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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