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名人挑戦まであと1勝の斎藤慎太郎八段(27)元名人・佐藤天彦九段(33)が誘う横歩取りを受けて立つ

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2月26日9時。静岡県静岡市・浮月楼においてA級順位戦最終9回戦、全5局が始まりました。

 注目の▲斎藤慎太郎八段(7勝1敗)-△佐藤天彦九段(4勝4敗)戦。斎藤八段は勝てば無条件で名人挑戦が決まります。

 斎藤八段は対局室に早めに入り、対局開始の時を待ちました。

 次いで佐藤九段が床の間を背にして、上座にすわります。前髪が目にかかるほどに長く、午後からはヘアピンで止めていました。

 佐藤九段は2015年度、A級1期目にして8勝1敗の好成績をあげ、羽生善治名人(当時)に挑戦。名人位を獲得し、連続3期在位の実績があります。

 東京、大阪の将棋会館で指される順位戦は、朝10時に始まります。近年恒例の浮月楼でのA級最終戦は、朝9時の開始です。

 立会人を務めるのは地元静岡県出身の青野照市九段。A級は通算11期を務めています。

「定刻になりました。斎藤八段の先手番で始めてください」

 青野九段が対局開始の合図を告げ、両対局者は一礼しました。

 まず注目されるのは、後手を持つ佐藤九段の作戦です。佐藤九段は最近、積極的に振り飛車を指すようになっているため、それを予想していた人も多いかもしれません。本局では横歩取りへと誘導しました。はたして斎藤八段は想定していたでしょうか。

 15手目。斎藤八段は1分を使い、2筋の飛車を3筋へと動かすモーションで、きっぱりと横歩を取ります。

 対して、後手は3三に角を上がる手が主流のところ、佐藤九段は4二に玉を上がりました。最近しばしば見られる手法です。

 あっという間に詰む、詰まないの段階に入るきわどい変化を含みとして、

両者は慎重に駒を進めていきます。

 22手目。佐藤九段は8筋の飛車で7筋の横歩を取ります。これで歩の損得はなくなりました。

 斎藤八段はスキができた佐藤陣の8筋に歩を垂らし、と金作りをねらいます。佐藤九段は歩成を受け、12時、昼食休憩に入りました。

 12時40分、対局再開。一手の比重が重い、力のこもった序中盤が続きそうな進行です。

 斎藤八段は2筋の飛車をぐるりと8筋に転換しました。13時半を過ぎた現在は、斎藤八段が33手目を考えています。

 ▲広瀬章人八段(6勝2敗)-△豊島将之竜王(5勝3敗)戦は相矢倉。両者ともに金矢倉に組んで、広瀬八段は穴熊へと組み替えました。こちらも先が長そうです。

 A級順位戦の持ち時間は各6時間(ストップウォッチ方式で60秒未満切り捨て)。いつもより1時間早い開始ですので、計算上ではいつもより早めに終局することになります。しかしそこは将棋界の一番長い日。決着はやはり、夜遅くとなるのでしょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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