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名人候補・藤井聡太二冠(18)異次元の強さでB級1組昇級決定 順位戦18連勝→1敗→現在20連勝

松本博文将棋ライター

 2月9日。東京・将棋会館においてB級2組順位戦10回戦▲窪田義行七段(48歳)-△藤井聡太二冠(18歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は21時46分に終局。結果は100手で藤井二冠の勝ちとなり、藤井二冠は9勝0敗、窪田七段は4勝5敗となりました。

 藤井二冠は最終戦を待たず、B級1組昇級が決定しました。

藤井聡太二冠コメント「昇級する可能性自体は高い状況ではあったんですけど、勝って昇級を決めることができたのは、とてもよかったと思っています。(競争相手の状況次第で昇級が決まる可能性は)一応知ってはいたんですけど、対局に臨むにあたってはあまり他局のことは考えないようにしようと思っていました。普段通りじっくり考えて指せればとは思っていました。(今期9連勝という成績については)難しい将棋が多かったんですけど、一局一局しっかり考えて指してこれたのが結果につながったのかな、というふうに思います。初戦の佐々木勇気七段との一局はとても難しい将棋だったんですけど、それに勝つことができて、前を向いてやっていくことができたのがよかったかなと思います。(2年連続昇級を決めたが)やっぱりB1だとまた対戦相手がさらに厳しくなるかなとは思うので、これからさらに実力をつける必要があるかなというふうに思いますし。B1だと(これまでのチェスクロック方式ではなく60秒未満切り捨ての)ストップウォッチ6時間で少し持ち時間も伸びると思うので、しっかり考えて指していきたいなと思います」

また藤井二冠の順位戦の通算成績は38勝1敗(0.974)。連勝記録は20連勝に伸びました。

藤井二冠、振り飛車党の実力者を相手に堂々の完勝

 対局開始前、駒を並べる際、窪田七段は「心雅」という扇子を手にしていました。これは師匠の花村元司九段が揮毫したものです。

 窪田七段と藤井二冠は、同じ木村義雄14世名人一門にあたります。

 振り飛車党の窪田七段。本局では四間飛車を選択しました。

藤井「(窪田七段の四間飛車は)考えられる戦型かなとは思っていたんですけど。ただ(23手目)▲5六銀と出られたあたりから少し想定とは違って、一手一手難しい展開になったのかな、とは思っていました」

 昼食の注文は、藤井二冠は鳩やぐらの和風カレー。これは現在の最新形です。

 一方の窪田七段は他の棋士の注文をも見て熟慮の末、食事の注文はしませんでした。

 対局再開10分前、中継の画面には、藤井二冠の頭が映ります。

 12時40分、対局再開。そこからまた藤井二冠はしばらく考え、昼食休憩をはさんで48分を消費。玉の近く、2筋の銀をじっと立って陣形を整えました。

 33手目。藤井二冠から仕掛けられる順が見えているところ窪田七段は4筋三段目に金を上がり、高美濃の堅陣を完成させます。対して藤井二冠は7筋の歩をぶつけて仕掛け、中盤の戦いが始まりました。

窪田「いいタイミングで決戦されたなという感じですね」

 36手目。藤井二冠は5筋の金を玉側に寄せます。戦いの最中に、機を見て陣形を整備するのは上級者の呼吸ですが、本局ではこの金の姿が好形となりました。

藤井「こちらの陣形が少しめずらしい形ではあったんですけど、金が縦に2枚並んだ形を崩さなければ、けっこう戦えるのかな、というふうには思っていました」

窪田「37手目の▲5六歩が敗着かなと。△7六歩取り込まれて、決戦に持ち込まれてからはちょっとまずいなあ、と思ってましたね」

 40手目。居飛車の藤井二冠は一路横の7筋に飛車を寄せます。袖の位置なので、これは袖飛車と呼ばれます。7筋で間接的に互いの飛車が一触即発の状況となりました。

 窪田陣の7筋は上から銀、角、飛の順に並んでいます。銀取りになっているのでどう応じるか。部分的には、主に2通りの手段が考えられました。一つは角筋を開いて積極的にさばきにいく順。もうひとつはじっと角を引いて、さらに相手の出方を待つ順。

 窪田七段は37分近く考えて、角を引く順を選びました。結果的には、この手を境に形勢は藤井二冠へと傾いたようです。

 藤井二冠は飛角交換をして自陣に手を戻し、次の飛打ちを楽しみとします。48手目、藤井二冠が桂を跳ねた局面で夕食休憩に入りました。

 18時40分、対局再開。窪田九段は相手の飛車先に歩を打って手段を求めます。

窪田「やっぱりちょっと、がんばったけれど、冷静に見るとかなりわるいですね。49手目▲7三歩も、かなりひねりだした感じで。ちょっと苦し紛れだったかな、というね。正確に対応されちゃったかな、という印象ですね」

 窪田七段は飛角交換で飛を取り返して藤井陣に打ち込みます。藤井二冠は桂香を取り、さらにはと金を作りました。一方で窪田七段もと金を作って反撃の形を築きます。藤井二冠優勢ながら、そう簡単ではないようにも見えました。

 70手目。藤井二冠は8筋、角取りで香を打ちました。これは目をみはるような一手です。なにしろ、と金にただで取られてしまうところ。しかしただで取らせることによって、と金を中央ではなくそっぽへとそらせる効果があります。

 さらには74手目、馬(成角)を引いて角との交換を迫ったのも好判断。

藤井「△6六馬とぶつけたあたりで、少し攻めが手厚くなってきたという印象でした」

 84手目。藤井二冠はからめ手の端から攻めます。これが相手の歩切れをついてぴったり。横からと端からの攻めで、美濃囲いの堅陣に収まる窪田玉を一気に受けなしに追い込みました。

藤井「(96手目)△5九角と打ったあたりで、攻めがつながる形なのかというふうには思いました」

 100手目。藤井二冠は窪田陣に銀を打ち込んで着実に押していきます。

 腕を組み、しばらく瞑目していた窪田七段。12分を使い、そして次の手を指さずに投了を告げました。

窪田「(藤井二冠と対戦した感想は)及ばなかったな、というね。私の方も前々からがんばる余地があったな、ということを思うけれど、しっかりしていたな、つけいるスキがなかったなという印象だったですね」

 藤井二冠は振り飛車党の実力者を相手に堂々の勝利。B級2組は9戦全勝で、1期通過を決めました。

 B級2組最終11回戦、藤井二冠(9勝0敗)は中村太地七段(6勝3敗)と対戦します。中村七段には他力ながら逆転昇級の目が残されています。

 一方、窪田七段(4勝5敗)は横山泰明七段(6勝3敗)と対戦します。横山七段は自力昇級の権利があり、勝てば昇級が決まります。窪田七段の対局は、こちらでも注目されることでしょう。

 藤井二冠の順位戦通算成績は38勝1敗。筆者は表を作成しながら、勝率を計算して四捨五入すると、37勝1敗(勝率0.9737)も38勝1敗(勝率0.9744)も「0.974」で変わらないと気づかされました。この事実をどう表現すればいいのでしょうか。

 藤井二冠に順位戦で唯一勝っているのは、やはり近来異例のスピードで順位戦の昇級を続けている近藤誠也七段。来期、総当たりのB級1組で、両者が対戦することは決まっています。

藤井聡太二冠コメント「B級1組はトップクラスの実力のある方ばかりという印象ですので、自分もさらに力をつけて、戦っていきたいなというふうに思います。B1からは総当りで、持ち時間も少し増えるので、そういった強い方と長い持ち時間で対戦できるというのは、楽しみではあります。(今年度の)対局に関しては、朝日杯がすぐ近くにあるので、順位戦とはかわって早指しですけれど、しっかりいいパフォーマンスを出せるようにしたいなと思っています。(準決勝の渡辺明名人戦は)持ち時間が比較的短いので、決断よく指すことが重要になってくるのかなとは思ってます。(持ち時間が長い棋戦は相性がいい?)順位戦、持ち時間6時間と(タイトル戦番勝負をのぞく)普段の対局では一番長いので、じっくり考えられるのが自分に合ってるところはあるのかな、と感じてます。自分としてはまだA級や名人については意識することはまったくないんですけど、B級1組でどのくらい戦えるか大事かなと思いますし。B1は他のクラスよりも対局数が多くて、より安定した力が試されるという印象があるので、そこでしっかり戦っていける力をつけたいなというふうには思います」

 順位戦での勝利は、名人位へと続いています。順位戦、名人戦での年少記録としては、加藤一二三九段の18歳3か月でのA級昇級、20歳3か月での名人挑戦という、空前にしておそらくは絶後の記録があります。これはさすがの藤井二冠も更新することはできません。

 しかし藤井二冠には依然、史上最年少20歳での名人獲得の可能性は残されています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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