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渡辺明王将(36)飛車の華麗な大転回を決め一気3連勝 永瀬拓矢挑戦者(28)をカド番に追い込む

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月30日・31日。栃木県大田原市・ホテル花月において王将戦七番勝負第3局▲渡辺明王将(36歳)-△永瀬拓矢王座(28歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 30日9時に始まった対局は31日17時25分に終局。結果は115手で渡辺王将の勝ちとなりました。渡辺王将はこれで3連勝。防衛まであと1勝としました。

 第4局は2月13日・14日、東京都立川市「SORANO HOTEL」でおこなわれます。

渡辺王将、堂々たる第一人者ぶり

 渡辺挑戦者先手で戦型は相掛かり。1日目は比較的ゆっくりとした進行となりました。後手の永瀬挑戦者が8筋で飛車先の歩を交換したあと、7筋、3筋の横歩を取る展開となりました。

 28手目。手の広い局面で、「自然な手を指したかった」という永瀬挑戦者。昼食休憩をはさみ2時間17分の長考をします。そして中段に角を打ちました。

 対して渡辺王将は「角には角」の格言通り、角を打って手堅く対応します。4筋の歩も取られて合計3歩損となりましたが、これでバランスは取れているようです。

 34手目まで進み、渡辺王将が35手を封じて1日目が終わります。

 2日目朝、封じ手開封。渡辺王将の35手目は桂取りに歩を打つ手でした。渡辺王将もそう自信はなかったようです。しばらくは渡辺王将の攻め、永瀬挑戦者の受けという進行。その中で永瀬挑戦者は反撃含みの攻防の角を放ちました。

渡辺「歩損して、代償を取りに行く展開だったんですけど、歩を捨て過ぎてるんで、今日の午前中あたりはちょっとまずくしてしまったかなと思ってたんですけど」

 47手目。渡辺王将は角取りに歩を打ちます。ここは大きな分岐点でした。じっと6筋に角を逃げるか。それとも王手で9筋に出るか。

 もし6筋に角を逃げていたら、銀と角の追いかけっこで千日手となる可能性がありました。

渡辺「確かに千日手以上が難しい場合があるか」

 本譜、永瀬挑戦者は王手を選びました。対してここでも「角には角」で渡辺王将は角を打って手堅く受けます。渡辺王将は馬(成角)を作りながら永瀬挑戦者の飛車を永瀬陣奥にまで押し込みます。このあたりで形勢は渡辺ペースとなりました。

 昼食休憩から再開前。永瀬挑戦者はいつも通り、早めに対局室に戻ってきました。再開後の64手目、本局3回目の中段の角を打ちます。

渡辺「攻め方がまずかったかな、ということを(本日2日目の)午前中は思ってたんですけど。歩切れを解消することと、駒の損得を重視しながら指してたんですけど。そういう感じですか、昼休のあとは」

 65手目。渡辺王将は2筋最下段にいた飛車を五段目に浮きます。次に左辺への転回を見せ、気持ちのいい活用。両者の飛車のはたらきの差が目に見える形で表れました。

渡辺「▲2五飛車と浮いたところで、形勢としてはよくなったかと思ったんですけど、それまではちょっと歩切れに悩む展開だったんで。(相手に)うまい手があったらまずいかな、と思ってやってました」

永瀬「▲2五飛車と浮かれた局面で長考して、指し方がまったく浮かばなかったので、形勢がわるいのかなと思いました」

 ここは両者の見解が一致しました。コンピュータ将棋ソフトはここで3筋の歩を突いて飛車の転回を一度は阻止する順を最善としていましたが、飛車を一つ引けばやはり飛車のはたらきを止めるのは難しい。

 本譜、渡辺王将の飛車は7筋に転回。永瀬陣へダイレクトに利くようになって優勢がはっきりしました。さらには9筋に回って桂を取りながら成り込んで龍も作ります。

渡辺「飛車が成れたんで、はい。飛車が成って駒得になったあたりでよくなったと」

 永瀬挑戦者は時おり頭に手をやり、苦しそうな表情を見せます。粘りと根性にかけては棋界有数の永瀬挑戦者。気が早い人ならば投了してもおかしくはなさそうな局面から、気力をふりしぼって指し続けます。しかし本局では、そのがんばりは報われませんでした。

 安全な勝ち方を探せばいろいろな手順がありそうなところ、渡辺王将はきっぱり踏み込んで勝ちにいきます。永瀬玉を五段目にまで引っ張り出し、受けなしに追い込みました。

 永瀬挑戦者は絶望的な局面を見つめ続けます。

「永瀬先生、残り30分です」

 その声を聞いて一呼吸を置いたあと、永瀬挑戦者は5筋に香を打ちます。持ち時間8時間のうち、残りは29分。対して渡辺王将は1時間10分を残しています。

 渡辺王将は4分を使って最終確認。銀を打って永瀬玉を詰ませにいきました。永瀬挑戦者は玉を四段目に引きます。

 両者ともに永瀬玉に詰みがあることはもう、わかっています。渡辺王将はそこでさらに念を入れて4分を使いました。永瀬挑戦者にとってはつらい時間だったでしょう。

 115手目。渡辺王将は盤上中央に香を打って王手をします。永瀬挑戦者はそこで投了しました。

渡辺「中盤、攻め方というか、形勢判断を含めて、調べてみないとわかんない将棋だったなと、いまはそういうふうに思っています。(3連勝だが)まだ途中経過ですので。(第4局まで)ちょっと間が空くので、また近くなってきたら作戦を練って臨みたいと思っています」

 一方で永瀬王座は「カド番」に追い込まれました。

 王将戦七番勝負ではまだ3連敗4連勝は実現していません。永瀬挑戦者はミラクルを起こすことはできるでしょうか。

 両者の対戦成績はこれで渡辺王将14勝、永瀬挑戦者3勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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