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女性初の棋聖戦本戦進出が期待された西山朋佳女流三冠(25)元棋聖・屋敷伸之九段(49)に敗れる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月27日。東京・将棋会館においてヒューリック杯棋聖戦二次予選決勝▲西山朋佳女流三冠(25歳)-△屋敷伸之九段(49歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は17時22分に終局。結果は92手で屋敷九段の勝ちとなりました。

 屋敷九段はこれで本戦(決勝トーナメント)に進出です。

 女性として棋聖戦史上初めて一次予選を突破し、二次予選に進んだ西山女流三冠。惜しくも本戦進出はなりませんでした。

屋敷九段、さすがの貫禄を見せる

 公式戦で多くの男性棋士を破っている西山朋佳女流三冠。棋聖戦では一次予選を4連勝で突破しました。

 二次予選でも森下卓九段に勝って、ここまで5連勝お快進撃を続けています。

 現在進行中の三段リーグでは18戦中12戦を終えた時点で8勝4敗と、昇級圏内にいます。

 依然女性初の四段昇段に期待もかかります。

 屋敷九段は棋聖位獲得通算3期。現在も第一線で戦い続ける名棋士です。

 屋敷九段は1990年、当時史上最年少の18歳で棋聖位を獲得。藤井聡太現棋聖が2020年、17歳で棋聖位を獲得するまで、30年にわたって破られない史上最年少のタイトル獲得記録の持ち主でした。

 社会的にも注目を集める中、本局は始まりました。

 先手を得た西山女流三冠は、得意の中飛車を採用します。対して屋敷九段は中段に銀を2枚並べて迎え撃ちました。

 西山女流三冠は中央5筋の歩を交換。屋敷九段はそのタイミングで反撃を仕掛けます。桂交換から屋敷九段は西山陣一段目にと金を作りました。そこで昼食休憩です。

 棋聖戦二次予選の持ち時間は3時間。ときに大変な早指しで相手を圧倒することもある西山女流三冠ですが、本局では慎重に時間を使って指し進めました。

 再開後、屋敷九段はと金で香を取って、駒得の実利をあげます。対して中飛車の西山女流三冠は左辺の駒がさばけ、バランスは取れています。

 46手目。屋敷九段は桂を控えて2筋に打ちました。これぞまさに本筋という一手。すぐに何かが起こるわけではありません。しかし美濃囲いに収まる西山玉に照準を定め、進んでみればこの桂がよく効いていることがよくわかります。

 屋敷九段は中盤、駒得の利をうまく優位へと結びつけていきました。このあたりはさすが実力者の指し回しです。

 形勢でも時間でも劣勢に立たされた西山女流三冠。決定打を与えず持ちこたえ、逆転のチャンスをうかがいます。

 屋敷九段は時間を使いながら着実な指し回し。セオリー通り、西山玉を左右はさみ撃ちの形へと持ち込みました。

 最後は攻防ともに手段が尽きた西山女流三冠。92手で投了となりました。

 西山女流三冠は屋敷九段という高い壁を前にして、本戦進出を阻まれました。とはいえここまで見事な快進撃。いずれまたそう遠くないうち、注目を浴びる舞台に立つことでしょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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