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総手数227手! 終局午前1時4分! 早指し双璧・菅井竜也八段&糸谷哲郎八段、深夜の順位戦を戦い抜く

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月22日。大阪・関西将棋会館においてA級順位戦6回戦▲菅井竜也八段(28歳)-△糸谷哲郎八段(32歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は深夜1時4分に終局。結果は227手で菅井八段の勝ちとなりました。

 両者の今期A級成績は、ともに3勝3敗となりました。

早指しのスター2人、持ち時間6時間を使い切る

 両者は棋界屈指の早指しの雄として知られています。

 早指し棋戦では、菅井八段は大和証券杯ネット将棋・最強戦優勝、朝日杯準優勝。糸谷八段はNHK杯準優勝2回、銀河戦準優勝2回などの実績があります。

 糸谷八段は先日放映された銀河戦決勝で藤井聡太二冠に敗れたものの、その実力を存分に見せました。

 また今年おこなわれた超早指しのAbemaTVトーナメント(非公式戦)でも、両者は活躍しています。

 長い時間の棋戦でも、両者の指し手は早い。よって本局は早く終わるのではないか。そう予想していた方も多かったでしょう。しかし現実は、それどころではありませんでした。

 先手の菅井八段は中飛車から穴熊の作戦。対して糸谷八段は居飛車で左美濃に組みました。

 14時すぎ、中央で互いの攻めの主力である飛角銀がぶつかって、戦いが始まります。

 51手目、菅井八段が自陣一段目に飛を引いたところで夕食休憩となりました。

 夜戦に入ったあと、菅井八段は堅陣を頼みに、飛、角を順に切って強く攻めていきます。バランスが保たれ勝敗不明のまま、終盤戦に入りました。

 菅井八段は自陣の穴熊玉の堅さを巧みにキープしながら、糸谷玉に迫る形を作ります。100手を過ぎたあたりでは、形勢は菅井八段優勢となりました。

 しかしそこから糸谷八段が粘りに粘ります。菅井八段も明解な寄せを逃し、いつしか泥仕合に。両者互いに自陣に頑強を駒を埋めながら、いつ果てるとも知れない長い戦いが続きました。

 糸谷玉は中段を逃げ回りながらもなかなか寄りません。対して鉄壁の穴熊に収まっていた菅井玉にも王手がかかるようになってきました。

 185手目。菅井八段は糸谷玉近くに銀を打って攻めます。ここで持ち時間6時間を使い切り、一分将棋となりました。

 菅井八段はデビュー以来、順位戦を百局以上を戦いながら、ずっと持ち時間を使いきることはなく、今年のA級2回戦・豊島将之竜王戦で初めて一分将棋となったそうです。その時は総手数204手、終局時刻は深夜1時27分。結果は菅井勝ちでした。

 本局もまた、その時を思い起こさせるような深夜の熱闘です。

 糸谷八段のがんばりが功を奏して、形勢は一時、勝敗不明にまで巻き戻りました。菅井八段にとってはいやな流れだったでしょう。しかし菅井八段は踏みとどまり、再び優位に立ちました。

 206手目。糸谷八段は歩を打って自玉の受けとします。ここで糸谷八段も持ち時間6時間を使い切りました。両者の順位戦で深夜の一分将棋になるとは、どれだけの人が予想しえたでしょうか。

 菅井陣の穴熊は、いつしかまた鉄壁となっていました。自玉のうれいがなくなったところで、菅井八段はすっぱり糸谷玉を寄せにいきます。

 227手目。菅井八段は金を打って王手。これでついに糸谷玉は詰んでいます。

 深夜1時4分、糸谷八段が投了。大熱戦に幕が下ろされました。

 ネットで観戦する側も眠さを忘れるような、そして寝不足となりそうな、大熱戦でした。

 菅井八段、糸谷八段はこれでともに3勝3敗。A級順位戦は混戦の様相を呈してきたようです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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