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永世棋聖・羽生善治九段(50)若手実力者・高見泰地七段(27)を降して棋聖戦二次予選決勝進出

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月22日10時。東京・将棋会館において第92期ヒューリック杯棋聖戦二次予選▲高見泰地七段(27歳)-△羽生善治九段(50歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は17時27分に終局。結果は110手で羽生九段の勝ちとなりました。

 羽生九段は二次予選決勝で森内俊之九段と対戦します。

羽生九段、2枚香で高見陣を貫く

 高見七段先手で戦型は相矢倉。昼食休憩までは先日指された叡王戦七段予選▲高見七段-△村中秀史七段戦と同じ進行でした。

 ▲高見-△村中戦は難しい中盤戦のあと、終盤では村中七段勝勢に。そこから逆転して、最後は高見七段が勝っています。

 本局では休憩明けの43手目、高見七段は手を代えて前例を離れ、違う進行となりました。

 高見七段は端1筋から動き、互いの駒台に香が乗ります。高見七段は2筋、羽生九段は6筋に香を据えて攻め合いにとなりました。

 まず最初に銀香交換の駒得を果たしたのは高見七段です。

 対して羽生九段は取れる銀を取らず、手にした香をさらに打ちつけます。6筋、7筋と2枚並んだ香、その背後の飛車が高見陣本営を射すくめる形となり、羽生九段が優位を築きました。

 16時半過ぎ。隣りの高橋道雄九段-富岡英作八段戦(王将戦一次予選)が終わる頃、本局はそろそろ終盤戦を迎えつつありました。

 17時。千駄ヶ谷の町に防災無線から「夕焼小焼」のメロディーが流れる頃、94手目、羽生九段は攻めの銀を五段目に出ました。高見玉の上部から重くプレッシャーをかける、着実な寄せです。

 終盤での追い込みに力を発揮する高見七段。羽生玉の上部から反撃を試みます。99手目、高見七段は手にした香をストレートに王手で打ち込みます。持ち時間3時間のうち、残りは高見2分、羽生21分。

 ストップウォッチ方式のため、時間は1分単位で消費されていきます。羽生九段が時間を使って考える間、記録係は紙に書かれた残り時間を示す数字を、一つずつ消していきます。

 静かな対局室に、記録係がペンを走らせる音が何度か響いたあと、羽生九段は端1筋の狭いところに玉を逃げました。10分を使って、残りは11分。形勢は羽生九段勝勢です。

 高見七段は羽生陣の桂を取って、下駄をあずけました。

「羽生先生、残りは10分です。秒読みは何秒からにしましょうか?」

「うーん・・・。5分から」

「はい。・・・あ、50秒だけ、今からやってください」

「はい。50秒、残り10分です。55秒。残り9分です」

 そして記録係がペンを走らせる音。羽生九段の残り時間も少なくなってきました。

 104手目。羽生九段はただで取られるところに馬(成角)を入ります。これが華麗な決め手でした。

 高見七段はただで取れる馬を取れば、自玉は詰んでしまいます。持ち時間を使い切って、あとは60秒未満で指す一分将棋。

「50秒、1、2、3、4、5、6、7,8、9」

 そこまで読まれて、高見七段は玉を下段に引きました。羽生九段は読み切っていたのでしょう。時間を使わず追撃します。中盤で据えた6筋の香が、ついに高見玉の死命を制するまでに至りました。

 受けなしに追い込まれた高見七段。羽生玉に王手をかけます。対して羽生九段は110手目。少し手を震わせながら逃げました。

「40秒」

「負けました」

 高見七段が頭を下げ、戦いは幕を閉じました。

 二次予選決勝に勝ち上がった羽生九段は次戦、本戦トーナメント進出をかけて森内九段と対戦。2018年5月以来となる対戦は、年明けにおこなわれます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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