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藤井聡太二冠(18)鮮やかな収束で木村一基九段(47)を降し銀河戦決勝に進出

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月10日。囲碁・将棋チャンネルにおいて銀河戦準決勝▲木村一基九段(47歳)-△藤井聡太二冠(18歳)戦が放映されました。棋譜は公式ページで公開されています。

 本局の収録日は10月1日。王位戦七番勝負での藤井4連勝のあと、両者にとっては5局目の対局でした。2日制で持ち時間8時間の王位戦とは対照的に、本局は持ち時間15分、1分の考慮時間10回、それを使い切ると1手30秒未満という早指しです。

 ここまでの年度成績は、藤井二冠は24勝5敗。木村九段は10勝10敗でした。

 本局の解説を担当するのは丸山忠久九段(50歳)。佐瀬勇次名誉九段門下で木村九段にとっては兄弟子にあたります。

 振り駒の結果、先手は木村九段。王位戦での先手番2局は相掛かりでしたが、本局では矢倉を選びました。

 後手番の藤井二冠は速攻を含みとして駒を前に進めます。前傾姿勢となって上半身を揺らし、盤上を映すカメラにちらちらと頭が映るのもいつも通りです。

 木村九段は攻めの銀を素早く上がって藤井二冠の動きをけん制します。藤井二冠は腰掛銀を経由して、受け重視の銀矢倉にスイッチしました。

 銀を前に進めて先攻したのは木村九段。対して藤井二冠は中盤の難しそうなところ、さほど時間を使わずに、決断よく桂を跳ね出して反撃します。これが木村陣の形を乱して、機敏な動きだったようです。

 木村九段は攻めの銀と相手の守りの銀の交換に成功します。対して藤井二冠は中央から押し返していきました。

 相手の攻めを強くとがめにいくのが木村流。跳ね出してきた桂をじっと歩で取りにいきます。その間に藤井二冠は中央から金を押し上げていきました。このあたりでは、藤井二冠がリードを奪ったようです。

 藤井二冠は取られそうな桂を1枚の歩と刺し違えます。そしてその1枚の歩によって、攻めがきれいにつながりました。

 藤井二冠は王手飛車をかけ、勝勢を確立します。

 88手目。藤井二冠はどう勝つかというところで、角を切り、桂を取って王手をかける華麗な順を見せました。

「これはさすがの一着ですね」

 解説の丸山九段が感嘆の声をあげました。藤井二冠、いつもながらに鮮やかな決め方でした。

 両者が残している考慮時間はともに2回。

 敗勢の局面で木村九段は考え続けます。どの負け方を選ぶかという、つらい時間だったかもしれません。王手の角をどう取るか。同玉ならば詰みはないものの、一手一手の寄せとなります。同歩ならば自玉は詰みです。

 木村九段は時間を使い切って、あとは一手30秒未満となりました。そして角を歩で取って、盤面中央で詰まされる順を選びます。

「負けました」

 木村九段ははっきりした声で告げ、一礼。そしてしばらく目を閉じ、腕を組んでいました。少し時間を置いたあと、木村九段が藤井二冠に話しかけ、感想戦が始まりました。

 銀河戦決勝に進出した藤井二冠は初優勝をかけ、糸谷哲郎八段と対戦します。

 木村九段と藤井二冠は本局のあと2回対戦しました。NHK杯では木村九段の勝ち。王将戦リーグでは藤井二冠の勝ち。トータルでは木村1勝、藤井6勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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