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斎藤慎太郎八段、右玉で豊島将之竜王の角換わりを受けて立つ A級順位戦5回戦開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月9日10時。大阪・関西将棋会館においてA級順位戦5回戦▲豊島将之竜王(2勝2敗)-△斎藤慎太郎八段(4勝0敗)戦が始まりました。

 対局がおこなわれるのは5階・御上段の間。豊島竜王は上座にすわって待ちます。頭の後ろには少し寝癖がついているようです。盤と座布団の間、畳の上に懐中時計を置き、鎖をくるくると巻きました。

 豊島竜王はつい先日、竜王位防衛を達成したばかりです。記者会見では今年度ここまでを次のように語っていました。

「対局できない時期もあって、調整とかは非常に難しかったですし。まあでもその中でタイトル戦を3つ(名人戦、叡王戦、竜王戦)指して、結果的に2つ勝つことができたのでまあまずまず・・・。そうですね、名人戦とか負けてしまいましたけど、まずまずの結果が出せたのかなというふうに思います。コロナで大変な中ですけど、対局ができているので、本当に関係者の皆さまには感謝していますし、対局できる幸せを感じています」

 豊島(とよしま)竜王のファンは、ネット上では「区民」とも呼ばれています。東京23区の一つ、豊島(としま)区にちなんだものです。

 同様の例としては、「貴族」と呼ばれる佐藤天彦九段のファンは「領民」とも呼ばれています。

 今年度叡王戦七番勝負は当初、第5局は「としま区民センター」でおこなわれる予定でした。しかしコロナ禍で延期となり、同所で対局がおこなわれることはありませんでした。

 七番勝負は延期された上に、持将棋2局を含んで第9局まで進むという異例の展開となりました。そして最終的には豊島新叡王が誕生しています。

「区民」の皆さんにとっては、うれしいことが多かった一年だったのかもしれません。

「おはようございます」

 9時52分頃、斎藤八段があいさつをしながら、対局室に姿を見せます。下座に着き、畳の上には腕時計、盆の上にはハンカチを置きました。

 斎藤八段はここまで糸谷哲郎八段、広瀬章人八段、菅井竜也八段、そして羽生善治九段と、強敵を4連破。A級1期目での名人挑戦権獲得も現実味を帯びてきました。

 2018年には王座を獲得した斎藤八段。久しぶりのタイトル挑戦となるでしょうか。

 ネット上では、自らを「鹿」と呼んでいる斎藤ファンも見られます。これは斎藤八段の出身地が奈良であることに由来しているのでしょう。

 作法通り、上位者の豊島竜王が駒台を手にして、中から駒袋を取り出します。ひもをほどき、口を開けて、盤上に駒をひらきます。そのとき偶然、1枚の角が盤上7七の地点に置かれました。序盤での▲7七角は、角換わりで出てくる手です。もしかしたら今日の豊島竜王は、角換わりを選ぶのではないか。筆者はそんな予感がしました。

 他の対局室からは、振り駒の音が聞こえてきました。記録係は両手のひらの中で5枚の歩をシェイクして、畳の上にまきます。トーナメントでは、対局直前に振り駒がおこなわれ、先後が決められます。

 一方でリーグ方式の順位戦では振り駒はなく、抽選時に先後まで決められています。

記録係「それでは時間になりましたので、豊島先生の先手番でお願いします」

豊島「お願いします」

斎藤「お願いします」

 両対局者、関係者が全員一礼して、対局が始まりました。

 7手目。豊島竜王は▲7七角と上がります。以下、戦型は角換わりに進みました。

 豊島竜王は腰掛銀。対して後手番の斎藤八段は右玉に組んで、待つ姿勢です。これはもちろん、事前に周到に用意した作戦だったのでしょう。

 相手に用心深く待たれると、仕掛けることはできません。豊島竜王は腰掛銀を引いて銀矢倉の形としました。

 11時30分時点では46手目、斎藤八段が4筋の歩を突いたところまで進んでいます。

 A級順位戦の持ち時間各6時間(60秒未満切り捨てのストップウォッチ方式)。昼食休憩(12時0分-40分)、夕食休憩(18時0分-40分)をはさんで、通例では夜遅くに終局となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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