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羽生善治九段、横歩を取らせ角を打って動く 豊島将之竜王が55手目を封じて竜王戦第4局1日目終了

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月26日。鹿児島県指宿市・指宿白水館において第33期竜王戦七番勝負第4局▲豊島将之竜王(30歳)-△羽生善治九段(50歳)戦、1日目の対局がおこなわれました。

 戦型は横歩取り。後手番の羽生九段は角交換のあと、端1筋から歩を突っかけて動きました。

 42手目、羽生九段は△4五角。豊島竜王の飛車を追いながら、中段に角を打ちました。この角がはたらくかどうかが、中盤の大きなポイントとなりました。

 縦横どこまでも動ける飛車と、斜めにどこまでも進める角。古今、飛車は多くの人に好かれてきました。一方、角はどちらかといえば使いづらい。かつては升田幸三元名人、現代であれば羽生九段や藤井聡太二冠などは積極的に、その角を実にうまく使います。角をどう使うかが、実力者の腕の見せどころの一つと言えるかもしれません。

 豊島竜王は飛車を逃げたあと、逆に羽生九段の角をねらい、△5四角と引かせます。中段でのせめぎあい。難しい応酬が続きます。

 52手目。羽生九段は△6五角とこちらに角を転換します。いかにも柔軟な羽生流といった感じの指し回し。ABEMA解説の中村修九段は、羽生九段の角の使い方を称賛していました。

中村「飛車ってわりと誰でも使いやすくて。打ち場所をそんなに間違えない。角はねえ・・・。敵陣に両取りに打つとかいうなら間違えないですけど、自陣に打つような角はねえ・・・。難しいんですよ、使うのがねえ。ヘタするとかえって攻められちゃってね。角の頭をポンポン攻められて『ああ、打たなきゃよかった』ということがよくあるんですけども。羽生さんの筋違い角、△4五角もどうなるのかと思ったんですけど、こうやって(△6五角と)ふわっと使ってきてね。これで(豊島竜王が▲4七角と合わせ)角交換になりそうですからね。うまいさばきだなあ、と感心しました」

 中村九段は、羽生九段の体調と対局延期に関しては、次のように言及していました。

中村「(コロナ禍の)この時期なんでね。将棋連盟としても、以前からタイトル戦なり、普通の対局なり、当日まで体調がわるかった場合は延期というルールになってましたんでね。昔、そういうのなかったんです。(2009年に)インフルエンザはやる前は、僕も若い頃は、それこそ少々熱があっても、不戦敗になっちゃいますからね、当時は。だからそうやって対局しに行ったことも、実はありました。言っちゃいけないかもしれませんけどね。そういう意味では、いまはよくなったんだと思いますし。こう言ったら失礼かもしれませんけど、羽生さんがそういった形で休まれたことによって、逆に言うとこれからの棋士が無理せず、体調、本当にわるい時はね、休むっていうことができるようになると思うんですよね。でもやっぱり、すごいですね、回復の早さが。回復してから3局ですよ、この対局までに。なんかもう、いい将棋を指すんですよ、これがまた。びっくりするぐらい。『本当に熱あったの?』というぐらい。素晴らしいですよね。やっぱり、普段からの鍛錬ですよね。そうでないと、これだけ長くタイトル持つことはできなかったと思います」

 54手目。羽生九段は△2五歩と飛車取りに打ちます。

 18時。立会人の藤井猛九段が、豊島竜王が次の手を封じることになった旨を告げます。豊島竜王はすぐにその意思を示し、別室で55手目を封じ手として記入。藤井九段が封じ手を入れた封筒を預かって、第4局1日目が終わりました。

 形勢はほぼ互角。封じ手予想の本命は、飛車を1筋に逃げる▲1六飛のようです。

 明日2日目は9時に封じ手が開封され、対局が再開されます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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