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羽生善治九段(50)華麗かつ正確に終盤を制し木村一基九段(47)に快勝 王将位挑戦争いに踏みとどまる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月17日。東京・将棋会館において王将戦リーグ▲羽生善治九段(50歳)-△木村一基九段(47歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は18時30分に終局。結果は91手で羽生九段の勝ちとなりました。

 羽生九段は退院明けとは思えないような強い勝ち方で、4勝1敗。リーグ残留を決めるとともに、挑戦権争いに踏みとどまりました。11月20日におこなわれる最終戦一斉対局では、同じく挑戦権を争う豊島将之竜王と対戦します。

 敗れた木村九段は0勝5敗となりました。最終戦では藤井聡太二冠(2勝3敗)と対戦します。藤井二冠にとっては、敗れればリーグ残陥落が決まる一局となります。

あまりに強い羽生九段、強く踏み込んで勝利

 羽生九段先手で、戦型は相矢倉。後手番の木村九段は急戦の構えを作ります。

 34手目。午後に入ってすぐ、木村九段は中段に桂を跳ね、攻めていきます。対して羽生九段は逆に、その桂を取りにいきます。盤面の左右で駒がぶつかり、難しい戦いとなりました。

 55手目。羽生九段はついに桂得をはたします。このあたりでは羽生九段がリードを奪っているようです。

 羽生九段は交換した桂、それに得した桂、合わせて2枚を中段に並べて優位を確かなものとします。

 64手目。木村九段は銀取りを放置して、金取りに歩を突き出します。これはさすがの勝負手。羽生九段が無難に収めようとすると、形勢はかなり詰まります。

 残り時間は羽生九段1時間17分、木村九段51分。の羽生九段は15分考えて、強く銀を取って決めにいきました。

「これはもう人じゃないというか、強すぎますね」

 解説の阿部光瑠六段は、そう感嘆の声をあげました。相手の銀2枚を取る間に、自陣の守りの要である金2枚を取らせてしまう。肉を切らせて骨を断つ。さすがは羽生九段という踏み込み方です。

 木村九段は手段を尽くして逆転をねらいます。ソフトが示す評価値は離れていますが、一手誤ればたちまち逆転するような最終盤でした。

 しかし羽生九段は誤りませんでした。87手目。羽生九段は手を震わせながら歩を成ります。木村玉には長手数の詰みが生じています。

 91手目。羽生九段が龍で王手をかけたのを見て、木村九段は投了しました。

 羽生九段はこれで4勝1敗。リーグ残留を確定させるとともに、挑戦権争いに踏みとどまりました。

 隣室でおこなわれている全勝決戦、▲永瀬王座-△豊島竜王戦は、いつ果てるともしれない死闘が続いています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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