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羽生善治九段(50)封じ手は大方の予想通りで、これから激しい戦い始まるか?竜王戦七番勝負第3局2日目

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月8日9時。京都市、総本山仁和寺において第33期竜王戦七番勝負第3局▲羽生善治九段(50歳)-△豊島将之竜王(30歳)戦、2日目の対局が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 羽生九段は8時47分、豊島竜王は49分に入室。これは昨日1日目とほぼ同じ時間でした。

 羽生九段の後ろ髪は少し跳ねています。これはデビューの頃から長きにわたって変わらず、対局の朝にしばしば見られるスタイルです。七冠フィーバーの頃にこの「寝癖」はずいぶんと有名になり、1996年には長山洋子さんが歌う「たてがみ」という曲もリリースされました。

 本局の立会人を務めるのは福崎文吾九段(60歳)。1986年、七段当時に十段戦(竜王戦の前身となるタイトル戦)で米長邦雄十段に挑戦し、4勝2敗で初タイトルを獲得しました。しかし、翌87年には高橋道雄現九段の挑戦に0勝4敗で敗れ、失冠しています。

 福崎九段と高橋九段はタイトルを争うほどの関係でありながら、対戦成績は不思議なほどに片寄っています。

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 最近では豊島竜王と藤井聡太二冠で豊島竜王の6連勝という結果が大きく取り上げられます。これから両者の対戦はさらに増えていくはず。そうすると星取りはどう推移していくのでしょうか。

福崎「それでは1日目の指し手を読み上げますので、お願いします」

 記録係の高田明浩三段(18歳、森信雄七段門下)が前日の棋譜を読み上げていきます

高田「先手、羽生九段▲2六歩。後手、豊島竜王△8四歩。先手、▲2五歩。・・・」

 両対局者は声に従って、盤上の駒を動かしていきます。戦型は相掛かり。羽生九段が2歩得をする一方、豊島竜王は駒を多く前に進める手得をしました。

高田「後手、△9五歩」

 高田三段が49手目を読み上げ、豊島竜王は端9筋の歩を突きます。駒がぶつかって、いよいよ激しい進行も予想されるところです。

高田「ここまでの消費時間が羽生九段、4時間と22分。豊島竜王、3時間10分です」

 持ち時間は各8時間。羽生九段が少し多く使っているものの、それほどの差はありません。そして盤上の形勢は現状、ほぼ互角と見られています。

福崎「では封じ手を開封いたします」

 福崎九段が2通の封筒にはさみを入れます。

福崎「封じ手は▲9五同歩ですね」

 両対局者に封じ手用紙を示し、羽生九段は突っかけられた端の歩を取りました。予想でほぼ本命視されていた、常識的な一手です。

福崎「定刻になっていますので、対局を再開してください」

 両対局者は改めて一礼。第3局2日目の対局が始まりました。

 豊島竜王は一呼吸をおいて、50手目、角を四段目に出ました。飛車取りです。これも予想されていた一手です。

 報道陣が退出したあと、羽生九段はお茶を一服。足を崩して座り直しました。

 羽生九段は中段の飛車をどこに逃げるか。もちろん事前にこのあとの展開も深く読んでいるものと思われますが、改めて考えをまとめたのかもしれません。

 羽生九段は33分を使い、2筋の飛車を一つ左、3筋に寄せました。対して豊島竜王はノータイムで中央5筋の歩を突き出します。これは羽生玉の上部。取るのか、それとも他の手を指すのか。局面はさらに複雑の度合いを増してきました。

 53手目。羽生九段は端9筋の角を、一つ8筋に上がります。いかにも羽生流といった趣の、柔らかで含みの多い一手です。

 豊島竜王は想定できていたのかどうか。手を止めて考えています。

八代弥七段「豊島竜王の側が長考というほどではないですけど、腰を落として考えられているという段階でしょうかね」

「腰を落として考える」というのは将棋界独特の表現のようで、盤を前にじっと座って考える様子を表しています。

 時刻は10時50分を過ぎました。竜王戦七番勝負の2日目は昼食休憩をはさんで、夕食休憩はなく、通例では夕方から夜にかけての終局となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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