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西山朋佳女流王将(25)劇的な大逆転勝利で防衛 室谷由紀挑戦者(27)最終盤の落手で初タイトルを逃す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月30日。東京・将棋会館において第42期霧島酒造杯女流王将戦三番勝負第3局▲西山朋佳女流王将(25歳)-△室谷由紀女流三段(27歳)戦がおこなわれました。

 第1局は西山女流王将、第2局は室谷挑戦者が勝ち、両者1勝ずつをあげて最終決着局を迎えました。

 第1局は宮崎県都城市、霧島創業記念館・吉助でおこなわれるのが本棋戦の恒例です。

室谷「女流王将戦は初めての挑戦ということで、都城に行くのも初めてでしたし。とてもいい経験をさせていただいたな、という感じですね」

 後手の室谷挑戦者は3筋、次いで先手の西山女流王将は7筋に飛車を振って、戦型は相三間飛車。振り飛車党同士の対戦は、3局続けて相振り飛車となりました。

 長い序中盤を経て、優位に立ったのは室谷挑戦者でした。

西山「序盤はけっこう均衡保ててるかと思ったんですけど、中盤でうまく指されてしまって。かなりつらい将棋になってしまったかなと思って。そこから辛抱が続いた展開で」

室谷「本当に最初から気の使う展開で・・・。駒組が非常に長い展開が続いて、一手一手、本当に難しかったです。中盤、玉の組み換えができて、それなりに指せるようになったかな、と思ってはいたんですけど。そこでちょっとポイントを稼いだあと、大事に指しすぎたような感じがありました。

 辛抱を続ける西山女流王将。対して模様のいい室谷挑戦者は大事に指し続けるのがいいのか、それとも強く決戦に出るのがいいのか、方針が難しいところ。そしていよいよ戦端を開きました。

 持ち時間の3時間を使い切って、先に一分将棋となったのは西山女流王将でした。細いながらも攻め続ける西山女流王将に対して、室谷挑戦者はしのげればはっきりよし。

 そして一瞬、西山女流王将に大きなチャンスが訪れていたようです。駒を捨てて攻めをつなげる順があったのかもしれない。しかし時間がない。

 以後は室谷挑戦者勝勢がはっきりしていきました。しかし西山女流王将も勝負勝負と迫ります。

 室谷挑戦者にはいろいろな意味でプレッシャーがかかっていたのかもしれません。

 室谷挑戦者はここまで4回タイトル戦の番勝負に登場しながら、タイトル獲得にまでは手が届いていません。前期女流名人戦では、里見香奈女流名人に敗れています。

 現在の女性棋界は西山三冠、里見四冠の「二強」時代と言われています。両者がタイトルを二分する状況の中で、3人目のタイトル保持者が現れるのか。

 室谷玉は上部に逃げ出す形を得ました。さらに上部脱出、入玉を目指していくのか。あるいは攻め合いを目指すのか。勝利まであと少しといえども、ここでも方針を定めるのは難しい。室谷挑戦者も持ち時間がなくなり、一分将棋となりました。

 室谷挑戦者は攻め合いを目指します。しかしそこに大きな落とし穴がありました。

「桂だけは打たない方がいいよ。ああ・・・」

 解説の田村康介七段がそう言う中、映像には室谷挑戦者が攻め合いの桂を打つ場面が映りました。途端に大逆転です。

 西山女流王将は馬(成角)で香を取ります。馬は取られても、手にした香で室谷玉を詰ませることができます。

「急転直下でしたね」

 田村七段の言う通り、あっという間に勝敗は入れ替わりました。

室谷「最後ちょっと香車取られたのうっかりで(苦笑)、もう少し何か手順があったかなと思うんですけども。まあ仕方がないかな、と思います」

 勝ちになってからの西山女流王将はもう間違えず、あっという間に室谷玉を受けなしに追い込んでいきます。

 最後は155手。室谷挑戦者が投了して、西山女流王将の防衛が決まりました。

西山「最後はけっこう幸運としか言えない・・・内容だったかなと思います」

室谷「フルセットに持ち込めて(タイトルを)取れなかったのは残念ですけども・・・。一生懸命準備した結果ですので、仕方がないかな、と思います」

 室谷女流三段は5回目のタイトル挑戦で、獲得まであともう少しと迫りながら、手厚い「二強」の壁に阻まれた形となりました。

 一方、おそるべき終盤力で勝利をたぐりよせ、女流王将戦2連覇を達成した西山女流王将。

 西山女流王将のタイトル獲得数は、これで通算6期となりました。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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