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王将戦リーグ残留を目指す藤井聡太二冠(18)今期待望の初勝利 佐藤天彦九段(32)の中飛車を打ち破る

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月29日。東京・将棋会館において王将戦リーグ▲佐藤天彦九段(32歳)-△藤井聡太二冠(18歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は19時52分に終局。結果は118手で藤井二冠の勝ちとなりました。

 リーグ成績は藤井二冠1勝3敗。残留にのぞみをつなぎました。一方の佐藤九段1勝4敗となって、成績下位3人に入ることが確定し、リーグ陥落が決まりました。

藤井二冠、残留に向けて大きな1勝

 佐藤九段の作戦は、公式戦で自身初となる先手中飛車でした。

佐藤「気分的には興味のあった戦法ではあったんで。『いつか指してみたいなあ』というふうに思っていたんですけれども。そうですね、気分的なものもあって、今回採用したというところですね」

「やや意外ではありましたけど・・・」という藤井二冠。中飛車を相手にしての戦いは以前にも経験があるので、それを思い出しながら指していたようです。

 藤井二冠は速攻に出ました。

佐藤「序盤はちょっと損をしてしまったと思うので、細かいところはやっぱり・・・ちょっと認識不足だったかなという感じはします」

 午後の戦いに入ってからもしばらく受けに回っていた佐藤九段。中飛車らしく中央5筋からカウンターに出ました。

藤井「中盤でうまく動かれてしまって、こちらの玉が薄い形で戦いになってしまったのでちょっと、自信がない展開が長かった気がします」

佐藤「戦いが始まってからは、こちらがもう行くしかないような感じになっているかなと思っていたんですけど。ただ、そうですね、形勢的によくないかもしれないですけど、でも、難しい局面はずっと続いていたのかなあ、というふうに思っていました」

 67手目。佐藤九段はただで取られるところに銀を出ます。これがさすがの勝負手でした。ただで銀を取られる代償に、一気に決戦に出る順を見せています。

藤井「▲5五桂のあとに▲6五銀とぶつけられる筋が見えてなかったので、そのあたりはうまくさばかれて失敗してしまったような気がしてました」

 見えてなかったと局後に語りながらも、藤井二冠はただの銀を取らず、ノータイムで桂と刺し違える順に出ました。これが最善だったのかどうかは難しいところ。形勢は不明です。

 藤井二冠は振り飛車・美濃囲いの弱点である端から攻めます。対して佐藤九段は上手く応対。逆に端を詰める形になって、ポイントを挙げました。

 両者時間が切迫する中での終盤戦。藤井二冠はと金を作りながら佐藤陣を突破します。そして94手目。佐藤陣に飛車を成り込んで優勢を築きました。

藤井「飛車成ったあたりで少し指せる形になったかなと思いました」

佐藤「(飛車を成られて)そこはちょっともう足りない形かなとは思うんですけど。うーん、その前になにかあったか。ちょっと自分の読みでは、難しくなる順は見つけられなかったんですけど。調べて、その前になにかあったかどうか、という感じかなあと。互角に近い局面にする手があったかどうか、という感じですかね。ちょっとよくなるチャンスというのは難しかったかもしれません」

 優位に立ってからの藤井二冠は間違える気配がありません。

 ABEMA解説の阿部健治郎七段は藤井二冠を「百戦錬磨」と評しました。まだ高校生、18歳ですが、落ち着き払った指し回しは、歳に似合わず、まさに百戦錬磨と思わせます。

 隣りでおこなわれていた▲羽生善治九段-△広瀬章人八段戦は17時45分、83手で羽生九段の快勝となりました。リーグ成績はこれで羽生九段3勝0敗、広瀬八段1勝2敗。王将位通算12期のレジェンド・羽生九段の底力はさすがというよりありません。

 99手目。佐藤九段はあたりになっている飛車を玉そばの端に逃げます。持ち時間を使い切って、ここからは一分将棋となりました。

 対して藤井二冠は8分を残しています。中盤で惜しみなく時間を使うようでも、最終盤ではいくらか時間を残しておくのが藤井二冠の勝ちパターンです。

 深いため息をつく佐藤九段。そのあとで103手目、端に歩を成ります。そしてそのあとでまた、ため息をつきました。藤井玉を左右からはさみうちする形を作りましたが、藤井二冠から落ち着いて対応されてみると、足りません。

 106手目。自玉に詰みがない藤井二冠は踏み込んで、佐藤玉に詰めろをかけます。佐藤九段からはまたため息が聞かれました。佐藤九段の受けに、今度はまた端に歩を打つ攻防手を見せます。

豊川「打ちましたよ! 内山田! 手堅いですね」

 解説の豊川孝弘七段もそう感嘆の声をあげます。

 佐藤九段は天を仰ぎました。粘り強さが身上の佐藤九段であっても、こうも手堅く指し回されると、つけ入るスキが生まれません。

 佐藤九段は形をつくり、自玉が詰まされるまで指しました。

「負けました」

 118手目、藤井二冠の桂打ちを見て、佐藤九段は投了を告げました。

 残留を目指しての戦いは、藤井二冠が制するところとなりました。

藤井「あまり成績のことは考えずに、残りの2局は全力を尽くしたいと思います」

 佐藤九段は残念ながらリーグ陥落が決まりました。

佐藤「内容的にはいまの自分の実力かなあ、とは思うところなので。この成績と結果は、致し方がないかなあ、というふうには思っているんですけれども。まあやはり、レベルの高いトップの棋士たちとまとまった局数を指せましたので、いろいろ手応えもありましたし。もちろん、かなり足りないところもあるとは思いますけれども。あと1局、しっかり指して、また来期以降、リーグに入れるようにがんばりたいと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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