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藤井聡太七段(現二冠)三間飛車採用の羽生善治九段を破って銀河戦6連勝で勝ち残り決勝トーナメント進出

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2020年7月4日。第28期銀河戦本戦Cブロック▲藤井聡太七段(現二冠)-△羽生善治九段戦がおこなわれました。放映は9月29日。棋譜はこちら公式ページで公開されています。

 前局、藤井七段は稲葉陽八段を破って5連勝となりました。

 すでに「最多連勝者」は確定していた藤井七段。もし本局を勝つと「最終勝ち残り者」の資格で決勝T進出となります。もしその場合には5連勝(藤井七段より順位下位)の出口若武四段が繰り上がりとなります。

 羽生九段、藤井七段のこれまでの公式戦対戦成績は、藤井七段の3連勝でした。

 振り駒の結果、先手は藤井七段。早指しの対局ではありますが、藤井七段まずいつも通り、ゆったりとした動作で、紙コップに注がれたお茶を口にします。そして角道を開けました。

 対してオールラウンダーの羽生九段。4手目に角道を止めて変化します。居飛車、振り飛車、どちらも考えられる立ち上がりです。

 8手目。羽生九段は端9筋を突きます。対してこの歩を受けるのが藤井流。仮に相手が振り飛車にした場合でも、この突き合いは得と見ているようです。強者が流行を作るのはいつの時代でもよく見られること。最近はこの藤井流の影響を受けて、端を受ける棋士が増えているそうです。

 10手目。羽生九段は飛車を初期位置の8筋から遠く3筋に移動しました。「三間飛車」の作戦です。両者の公式戦の対局としては、これが初めての居飛車-振り飛車の対抗形となりました。

 羽生九段はなんでも指すとはいえ、三間飛車を採用するのは相当に珍しいところです。対して藤井七段は左美濃に組みました。

 羽生九段が飛車を据えた筋、3筋から動いたのに対して、藤井七段はその動きを逆用する形で抑え込みにかかります。そして少しずつ、藤井七段がポイントを稼いだようです。

 62手目。羽生九段は藤井陣二段目に歩を打ちます。藤井七段がじっとしていれば、と金を作ってポイントを返すことができます。前傾姿勢で考える藤井七段。モニターには藤井七段の髪の毛が映っています。

 藤井七段は飛角銀桂でスクラムを組んだような攻撃隊形。さらに少しずつその前線を押し上げていきます。羽生九段は裏側にと金を作り、と金を引いてプレッシャーをかけました。

 藤井七段はついに最前線の銀を羽生陣に成り込むことに成功します。対して羽生九段は74手目。今度は自陣一段目に渋い底歩を打ちました。じっと辛抱です。

 藤井七段、羽生九段ともに、互いに相手陣に小駒の成駒を増やして終盤戦に入りました。ほぼ勝敗不明の形勢です。

 藤井七段は先にと金で飛車を取ります。さらにこのと金は羽生九段の角に当たっています。この角をどこに逃げるか。羽生九段は三段目に逃げましたが、代わりに二段目に逃げる順も考えられたようです。

 羽生九段もと金で飛車を取り返せる形。しかし飛車は取らずに藤井玉の攻略を急ぎました。いかにも達人の呼吸といった感じですが、本局ではこのあたりの判断が勝敗を分けたのかもしれません。

 終盤の秒読みの中、互いに成駒を相手玉に近づけていく、まさに寄せ合い。

 先に相手玉の周りの守り駒をすべてはがしたのは、羽生九段の方でした。しかしそこで早い後続手段がありません。対して羽生玉のそばには2枚のと金が迫り、受けなしに追い込まれています。

 113手目。藤井七段は羽生九段のと金をすぐに同玉と払います。羽生九段はその手を見てすぐに「負けました」と頭を下げました。

 この結果、銀河戦Cブロックでは藤井聡太七段が6連勝で最終勝ち残り者となりました。規定により、藤井七段に次ぐ連勝者である出口若武四段も決勝トーナメント進出が決まっています。

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 上記表の肩書が現在と一致しないのは、収録時とのタイムラグがあるためです。1回戦の藤井棋聖-増田康宏六段戦は10月27日に放映されます。

 7月、藤井七段の過密スケジュールの中でおこなわれた羽生-藤井戦。藤井七段はこのあと、棋聖、王位のタイトルを獲得して二冠となります。

 藤井二冠にはこれで4連敗を喫したことになる羽生九段。9月には王将戦リーグで対戦し、初めて勝利をあげ、対戦成績を1勝4敗としました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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