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名人挑戦が見えてきた? 斎藤慎太郎八段(27)羽生善治九段(50)を降してA級ただ一人無敗4連勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月1日。大阪・関西将棋会館においてA級順位戦4回戦▲斎藤慎太郎八段(27歳)-△羽生善治九段(50歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は24時11分に終局。結果は111手で斎藤八段の勝ちとなりました。勝った斎藤八段は4勝0敗、敗れた羽生九段は1勝3敗となりました。

斎藤八段、堂々の勝利

 A級1期目の斎藤八段はここまで糸谷哲郎八段、広瀬章人八段、菅井竜也八段を降して3連勝。3回戦が終わった時点での唯一の無敗者であり、名人挑戦権争いのトップに立っています。

 新A級が一気に名人挑戦権を得るという例はしばしばあります。1993年度の羽生四冠(当時)もそうでした。

 一方の羽生九段は菅井八段に勝ったあと佐藤天彦九段、糸谷八段に負け。現在は1勝2敗です。名人挑戦を目指す上でも、またA級残留を決める上でも、これ以上の黒星は厳しいところです。

 今年度成績は、斎藤八段は9勝4敗(勝率0.692)。直近の対局は9月25日のA級・菅井八段戦でした。

 一方の羽生九段の今年度成績は10勝7敗。直近の対局は9月22日、王将リーグ開幕の藤井聡太二冠(18歳)戦。大変な注目を集める中で、羽生九段が勝ちました。

 羽生九段と斎藤八段のこれまでの対戦成績は羽生5勝、斎藤1勝。斎藤八段の唯一の1勝は2017年棋聖戦五番勝負であげられたものです。

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 2017年の棋聖防衛は羽生九段にとって通算98期目のタイトル獲得でした。

 そして今年の竜王戦七番勝負。羽生九段にとっては通算100期目がかかったシリーズとなります。

 羽生九段は9月27日に誕生日を迎えました。本局は50歳になってから初の対局となります。ちなみに本日10月1日は佐藤康光九段の51回目の誕生日でもありました。両者はともに五十代での名人挑戦、復位も期待されています。

 席次上、羽生九段は斎藤八段より格上です。ただし順位戦の場合は席次に関係なく、東西の移動回数は公平になるように割り振られます。

 羽生九段は関東、斎藤八段は関西の所属。本局は羽生九段が移動して関西将棋会館での対局となります。

 先後はあらかじめ斎藤八段先手と決まっています。後手番の羽生九段は横歩取りに誘導しました。これは先日の藤井二冠戦と同じ作戦選択です。

 今日から10月。暦の上ではもうすっかり秋といったところですが、羽生九段は依然半袖シャツ姿での対局となりました。

 17手目。先手にとっては大きな分岐点というところ。斎藤八段は1分で左上に玉を上がりました。佐々木勇気七段の名にちなんで「勇気流」と呼ばれる作戦です。最近ではどちらかといえば少数派の選択といえます。

 最近の多数派は玉をまっすぐ上がる「青野流」。これは青野照市九段の名にちなんでいます。この先手青野流が有力と見られているため、後手の横歩取り採用率は減ったと言われてきました。しかし最近では後手側が新工夫を見せ、巻き返しているようにも見えます。

 羽生九段にとっても「勇気流」は意外だったのでしょう。ここで21分考え、横歩を取り返しました。

 その後はしばらく前例をたどります。そして午後からは前例を離れ、難解な中盤戦に入りました。

 本格的に駒がぶつかったのは夜に入ってから。互いに相手の中段の飛車を攻撃目標として攻めていきます。

 斎藤八段わずかにリードかとも見られていた中盤の終わり。羽生九段は複雑な手を指し続け、斎藤八段の時間を削っていきます。

 羽生九段が席をはずしている間、斎藤八段はしきりにため息をつき、何かをぼやきます。

 87手目。斎藤八段は2筋で壁となっている金をじっと3筋に寄せます。終盤の忙しいところで、なんとも落ち着きはらった姿勢。持ち時間6時間のうち、残りは斎藤わずかに8分。羽生九段は1時間21分。時間は差がつきました。

 92手目。羽生九段は端1筋をつっかけます。善悪は不明。しかしどう対応していいのかも悩ましいところ。いかにも羽生九段らしい勝負術が見られます。

 時間が切迫する中、斎藤八段は誤りません。そして次第に斎藤優勢、さらには勝勢がはっきりとしてきました。

 苦しくなった羽生九段。時間を使って逆転の手段を探します。しかし本局は斎藤八段の終始落ち着いた指し回しが光りました。

 109手目。斎藤八段は羽生陣一段目に飛車を打ち込みます。残りは3分。これが決め手で、羽生玉に適当な受けはありません。

 残り27分の羽生九段。9分考えて受けても一手一手と判断。斎藤玉に詰めろをかけ、形を作りました。

 斎藤八段は羽生玉に王手をかけます。これで即詰み。羽生九段はほどなく投了の意思を示しました。

 斎藤八段はこれでA級4勝0敗。ただ一人の無敗をキープして、渡辺明名人への挑戦権が見えてきました。

 一方の羽生九段は1勝3敗。やや苦しい星となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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