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三間飛車VS居飛車穴熊 王座戦五番勝負第3局▲永瀬拓矢王座(28)-△久保利明九段(45)戦始まる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月24日10時。宮城県仙台市・仙台ロイヤルパークホテルにおいて第68期王座戦五番勝負第3局▲永瀬拓矢王座(28歳)-△久保利明九段(45歳)が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 第2局は久保九段が勝っています。

 その結果、両者のここまでの対戦成績は久保2勝、永瀬5勝となりました。

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 王座戦第3局のあと、中2日をおいての9月21日。叡王戦七番勝負第9局において、永瀬叡王は豊島将之挑戦者に敗れ、叡王位を明け渡すことになりました。

 永瀬王座のタイトル初防衛、およびタイトル通算3期での九段昇段の可能性は、この王座戦に持ち越されることになりました。

 永瀬王座の2020年度成績は18勝8敗2持将棋です。

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 全棋士中のランキングで、対局数は1位。勝数は2位。いずれでもトップを争っているのは藤井聡太二冠21勝5敗です。

 久保九段は17日、B級1組順位戦で郷田真隆九段と対戦しました。過去の対戦成績は郷田28勝、久保26勝と拮抗。A級でも8回対戦しています。後手番の久保九段は四間飛車。互いに玉側の香を上がって相穴熊に進むかと思われましたが、微妙な駆け引きの末、久保九段は銀冠。郷田九段だけが穴熊に組みました。午後に入って、郷田九段は仕掛けていきます。角を交換し、互いに飛車を成り合い、五分のやり取りのようですが、陣形差が大きく、郷田九段がはっきりリードを奪ったようです。自陣は金銀4枚の穴熊のまま郷田九段は攻め続けます。そしてゆるまずに久保玉を寄せ切り、21時49分、113手で快勝となりました。

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 B級1組で昇級争いの先頭を走っているのは、5勝0敗の永瀬王座と郷田九段、4勝0敗の山崎八段。前期A級の久保九段は2勝3敗でやや後退しましたが、長丁場のリーグ戦ですので、まだまだ逆転も可能性です。

 久保九段の今年度成績は13勝9敗となりました。

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 全国各地を転戦する将棋のタイトル戦。今年はコロナ禍で延期などがあり、スケジュールの変更にともなって、東西の将棋会館で多く指されました。

 王座戦五番勝負はここまで各地で対局がおこなわれています。第3局の地は仙台。次第に秋の気配も深まりつつあり、今朝はやや涼しい気温のようです。

 8時43分頃、永瀬王座が対局室に入り、上座に着きます。第2局に引き続いて、朝からスーツ姿です。

 8時47分。和服姿の久保九段が姿を見せます。

 対局開始10分前には、両者ともに駒を並べ終えました。そして静かに時間を待ちます。

「定刻になりましたので、永瀬王座の先手番で始めてください」

 定刻9時。立会人の青野九段が告げて、両者一礼。対局が始まりました。

 居飛車党の永瀬王座。すぐに飛車先の歩を突きます。

 対して振り飛車ファンの期待を背負って五番勝負を戦う久保九段。2手目に角筋を開けました。まずは久保九段がどこに飛車を振るのかが注目されるところです。

 7手目。久保九段は飛車を動かす前に端9筋を突きます。対して居飛車側はどうするか。以前は穴熊など持久戦を含みとするのならば、端を受けないことが多かったところです。ABEAMA解説の佐々木慎七段は次のように語っています。

佐々木「(最近は端を)受ける人が多いですね。受ける要因はいろいろあるんですけど。もちろん棋理(きり)とか真理(しんり)といいますか、そういう意味で受けるってケースもあるんですけど。藤井聡太二冠の影響もちょっとあると思いますね。藤井聡太さんは、ほぼ端歩を受けるんで。なんとなく、その影響もあるのかなと思っています」

 そう語っていたところで永瀬王座の手が動き、8手目、端を受けました。昔から数え切れないほど指されている居飛車-振り飛車の「対抗形」も、最先端ではこうしたちょっとした変化があります。

 9手目。左利きの久保九段は盤上右側の飛車を手にすると、大きく左側に寄せました。3筋に飛車を据える「三間飛車」の構えです。

 オーソドックスな振り飛車であれば、飛車を振ったあとはまず美濃囲いの玉形を作ります。しかし現代最先端では、そうとも限りません。久保九段は手早く桂を跳ねたり、飛車を4筋に振り直したりして、さかんに駆け引きを仕掛けます。

 そして永瀬王座が穴熊に組むのを見て、美濃囲いを横一路奥にずらした構えを作りました。

 42手目。久保九段はこの形の定位置である8筋最下段に玉を移動させます。永瀬王座が次の手を考慮中に、時刻は11時半を過ぎました。

 王座戦の持ち時間は各5時間(チェスクロック使用)。昼と夕方の休憩をはさんで、通例では夜に終局します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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