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豊島将之竜王(30)日本シリーズ2回戦で大熱戦を制し藤井聡太二冠(18)を相手に公式戦圧巻5連勝!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月12日。東京・ABEMAスタジオにおいて第41回将棋日本シリーズ・JTプロ公式戦2回戦、豊島将之竜王(30歳)-藤井聡太二冠(18歳)戦がおこなわれました。

 総手数は108手。結果は108手で豊島竜王の勝ちとなりました。両者の公式戦対戦成績はこれで、豊島竜王5連勝となりました。

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 豊島竜王はこれでベスト4に進出。渡辺明JT杯覇者(名人)-高見泰地七段戦の勝者と準決勝で対戦します。

豊島竜王、最後で抜け出し制勝

 豊島竜王はシードで2回戦からの登場。

 藤井二冠(当時棋聖、のちに王位獲得)は7月18日、1回戦で菅井竜也八段に勝っています。

 竜王と二冠。現代棋界トップクラス同士、優勝候補同士の大一番であることは言うまでもありません。

 それとともに、なぜ本局はひときわ注目されたのか。それは公式戦で勝率8割5分近く勝ち続けている藤井二冠が、これまで豊島竜王に4戦全敗だったからでしょう。藤井二冠にとってはこれまで、豊島竜王が大きな壁となっていたことは間違いありません。

 振り駒の結果「と」が3枚出て、先手は藤井二冠と決まりました。

 両者一礼して、対局開始。藤井二冠はまずグラスを手にして冷たいお茶を口にします。そして初手は角道を開けました。

 対して2手目、豊島竜王もまた角筋を開きます。戦型は横歩取りとなりました。豊島竜王は最近、先手番を持ってこの戦型を何度か指しています。本局では、その逆を持っているわけです。

 対して藤井二冠も方針決断は早い。青野流を採用して、ほとんどノータイムで指し進めていきます。

 角交換のあと、豊島竜王は相手陣のスキに角を打ち込みます。対して藤井二冠は飛車を切って金を取り、すぐに金を打って相手の角を取りにいきます。このやり取りで、駒割は角金と飛桂の交換となりました。

 37手目。中盤の手が広く難しい局面で、次の一手問題出題のため、藤井二冠が次の手を封じました。

 日本シリーズは例年、多くの観客の方を前にしての席上対局となります。ただし今年はコロナ禍のため、スタジオからの放映。次の一手問題の回答はネット上でおこなわれています。

 解説の松尾歩八段は3通りの候補手を示します。封じ手が開封されてみると、藤井二冠の指し手はそのどれでもない、桂跳ねでした。

 藤井二冠は駒台に乗る2枚の角を順に中段に打って攻めに使います。そして1枚を取らせる間にもう1枚を成り込み、一気に豊島玉に迫ります。

 藤井二冠が攻めきるか。それとも豊島竜王がしのぐか。秒読みの中、ギリギリの攻防が続きます。

 藤井二冠の厳しい追及を豊島竜王は的確に対応します。そしてついに豊島竜王に手番が回り、反撃に移ったところでは、豊島優勢がはっきりしてきたようです。

 しかし藤井二冠もまた最善を尽くして追い込みます。豊島竜王は藤井玉への寄せを開始しました。しかしそこでどこか、最善を逃したところはあったか。手に汗握る、勝敗不明の終盤戦となりました。

 81手目。藤井二冠は相手陣一段目に飛車を打って王手をかけます。豊島竜王は最後の考慮時間を使い、ここから両者ともに一手30秒未満で指すことになりました。

 豊島玉は一段目から二段目、三段目と逃げていきます。そして再び豊島竜王に寄せのターンが訪れました。

 時間があっても難しそうなところ。両者30秒の戦いの中では、いわゆる「指運」(ゆびうん)の勝負となったようです。

 息詰まるような最終盤。コンピュータ将棋ソフトが示す数字の上では、形勢は二転三転でした。そして最後に優位に立ったのは、豊島竜王でした。

 99手目。藤井二冠は龍取りに歩を打ちます。この瞬間、藤井玉には詰みが生じています。

 そして豊島竜王は瞬時にその詰みを読み切りました。

 藤井二冠は詰みがわかりやすいところまで進めます。そして108手目、金で王手されたところで頭を下げ、投了を告げました。

藤井「積極的にやろうというふうに思っていたんですけど、ちょっと途中で見落としがあって、少し内容的にはまずかったなあという気がします」

豊島「序盤は予定していた作戦で、終盤ぐらいまではそれなりにうまく指せてた気がするんですけど、最後の方はけっこう乱れてしまって。ちょっとよくわからないまま指していました」

 豊島竜王はこれで藤井二冠を相手に公式戦5連勝を飾りました。藤井二冠にとって豊島竜王は、依然高い壁のようです。

 両者は10月5日、王将戦リーグでも対戦します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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