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永瀬拓矢王座(27)に久保利明九段(45)が挑む王座戦五番勝負開幕 第1局は久保九段の四間飛車

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月2日9時。神奈川県秦野市鶴巻温泉「元湯 陣屋」において、第68期王座戦五番勝負第1局▲永瀬拓矢王座(27歳)-△久保利明九段(45歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 本局がおこなわれる陣屋は、将棋のタイトル戦がおこなわれる定番の対局場として知られています。

 8時43分頃、まず永瀬王座が対局室に入り、床の間を背にして上座に着きました。コロナ禍の状況の中でおこなわれるタイトル戦。永瀬王座は白いマスクをしています。信玄袋からは除菌クリーナーを取り出し、右手にしゅしゅっとかけて、両手でよくすりあわせました。

 永瀬王座のかたわらにはお茶、スポーツドリンク、水のペットボトルが合わせて7本。缶コーヒーが3本置かれています。

 叡王を合わせもち二冠を保持する永瀬王座。本局が終わったあと、中3日をおいて、同じ陣屋で叡王戦七番勝負第8局を戦います。

 現在は27歳の永瀬王座。2日後の9月5日には誕生日を迎え、28歳となります。充実著しい永瀬王座。今年度成績は16勝5敗2持将棋(2千日手)となっています。

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 現在の将棋連盟公式ページの表示(テレビ未放映分をのぞく)では、永瀬王座の対局数23(持将棋2局もカウント)はランキング1位タイ。勝数16は2位です。

 ちなみに両部門で1位なのは20勝3敗(勝率0.870)の藤井聡太二冠(18歳)です。

 8時45分頃、久保九段が対局室に姿を現します。近年のタイトル戦では挑戦者が先に入室することが多いのですが、本局では永瀬王座がかなり早めの入室なので、久保九段が遅いというわけではありません。

 白いマスクで隠れていますが、久保九段は最近ひげを伸ばして対局にのぞむことが多く、それがまたよく似合うという声が聞かれます。

 久保九段は今期王座戦、二次予選で大石直嗣七段、西田拓也四段に勝って本戦進出。本戦では松尾歩八段、飯島栄治七段、大橋貴洸六段、渡辺明二冠(現名人)に勝って挑戦権を獲得しました。

 8月27日に誕生日を迎えて45歳となった久保九段。今期王座戦で対戦したのはすべて歳下の棋士でした。そして永瀬王座もまた17歳下となります。

 久保九段の今期成績は12勝5敗。

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 勝率7割を超え、好調です。

 永瀬王座と久保九段のこれまでの通算対戦成績は永瀬4勝、久保1勝。

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 直近では王座戦二次予選決勝、日本シリーズ2回戦での対戦があり、いずれも永瀬王座が勝っています。

 両対局者が駒を並べ終えたあと、立会人の塚田泰明九段が声をかけます。

「第1局ですので、振り駒をしていただきます」

 記録係の鈴木麗音二段が立ち上がり、盤側の長机から盤をはさんで反対側に移動して、畳の上に白布を敷きます。そして永瀬王座の側から歩を5枚手にしました。

「永瀬先生の振り歩先です」

 鈴木二段は両手の中で歩をよく振ったあと、白布の上に投げます。結果、表の「歩」が3枚、裏の「と」が1枚、縦に立ったものが1枚。第1局は永瀬王座が先手と決まりました。

 開始の時刻を静かに待つ間、対局室外の緑豊かな庭園からは、蝉の声が聞えてきます。

「はい、定刻になりました。永瀬王座の先手番でよろしくお願いいたします」

 塚田九段が声をかけ、両対局者は「お願いします」と一礼。対局が始まりました。

 先手番の永瀬王座。初手は飛車先の歩を突きます。かつては振り飛車党だった永瀬王座も、現在は居飛車党です。

 一方で振り飛車党の期待を背にしてタイトル戦の大舞台に立つ久保九段。

「振り飛車党のタイトル戦というのは久しぶりだと思うんですけど、振り飛車でも戦えるというところを証明していければなと思っています」

 挑戦権を獲得した直後にはそう語っていました。

 本局、久保九段は12手目、四間飛車に振りました。年齢的にはもう「ベテラン」と言われてもおかしくはない久保九段。しかし現在も現代振り飛車のトップランナーであることに代わりはなく、戦型も最先端を走っています。

 振り飛車の玉形の定番は美濃囲いです。本局、久保九段はその美濃囲いを一路端の方にずらしたような駒組を披露しました。

 対して永瀬王座は居飛車穴熊の堅陣に組みます。

 10時過ぎ。永瀬王座は35手目、穴熊上部の四段目に角を上がって久保陣をにらみます。ここまでの消費時間は永瀬32分、久保29分。序盤から目の離せない展開となりそうです。

 王座戦五番勝負の持ち時間各5時間(チェスクロック使用)。昼の休憩50分、夕方の休憩30分をはさんで、決着は夜になる見通しです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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