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「今まであまり名人というタイトルを意識する機会はなかった」渡辺明新名人、七番勝負閉幕後インタビュー

松本博文将棋ライター
(写真撮影:筆者)

司会「お待たせいたしました。それではただいまより、渡辺明新名人の記者会見を始めさせていただきます。渡辺名人は本日おこなわれた第78期名人戦第6局において、豊島将之名人に勝利し、4勝2敗で初の名人位を獲得しております。それでは初めに、名人戦主催の朝日新聞様より代表質問をお願いします」

村瀬「朝日新聞の村瀬です。名人獲得おめでとうございます。主催社代表として、いくつか質問をまずさせていただきます。まず終局から少し時間が経ちまして、ちょっと気持ちも改まったのではないかと思うのですが、改めて名人獲得のいまの心境を教えていただけますか?」

渡辺「えーと、そうですね。えーと・・・。まあやっぱりちょっとまだ実感はないというか、そういう。まあそうですね、これから何日か経って、そういう実感も出てくるのかな、という感じはしてますけども、はい」

村瀬「そもそもの質問になってしまうんですけれども。名人というタイトルはやはり歴史が一番ある、伝統が最もあるタイトルということなんですが、渡辺名人にとっては、たとえば子どもの時とか、プロになった時からどんなタイトルだというふうにとらえてらっしゃったでしょうか?」

渡辺「えーと・・・。そうですね、まあ・・・。まあもちろん名人戦はずっと出てみたいタイトル戦ではあったんですけども、まあなかなかチャンスがなくて。まあそうですね、だからもう近年は、ま、ちょっと縁がないかな、というふうに思っていたところもあったので。なのでなんかなかなか、あと1勝というところまで来ても、なんかあんまりそういうイメージはなかったというか。そういうところもありますね。今もですけど」

村瀬「先ほど冒頭、心境を語っていただいたんですけれども、タイトル獲得となるとまあ、喜びとか、ほっとしたとか、そういう感情が湧き起こってくる部分というのはあるんではないかな、と思うんですけれども、そういうのはまだ今あんまりないっていう感じなんでしょうか?」

渡辺「まあそうですね。うーん。やっぱりそうですね、これから、はい。新聞とか見て、明日(笑)。ま、なんかお祝いの言葉とかかけてもらって、そういうので、少しずつ実感してくるのかな、とは思いますけど。うーん。まあそうですね、やっぱりちょっと、ピンと来ないところはありますね、はい」

村瀬「そういう中で、ちょっとまた重ねての質問になるんですけれども、これまでにも他のタイトルをたくさん獲得されてきておりますけれども、その時と比べて今回の名人獲得というのは、なにか今感じる実感とかですね、意味合いの違いとか、どういうふうにお考えでしょうか?」

渡辺「えーと、そうですね・・・。えーと。うーん・・・。やっぱり今回初出場ということでまあ、なんかほかのタイトル戦に比べるとやっぱり、ずいぶん出るのが遅くなったというところはあって。うーん・・・。まあだからA級に上がったのは二十代半ばぐらいだったと思うんですけど。まあそうですね、そっから十年ぐらいの間にやっぱ出れなかったんで。そしたらもう、ちょっとダメかなと思ってた部分はあったんで。うーん、だからそうですね、あんまり名人というタイトルを意識する機会はなかったですね、今まで、はい」

村瀬「今回、挑戦という立場ではあったんですけれども、相手は年齢は下の豊島名人ということで。そういう歳下が相手ということでの名人戦、タイトル戦でもあったんですが、それでその戦いを制した意味合いといいますか、なにかそこで感じる部分っていうのはあるでしょうか?」

渡辺「対戦相手のそうですね、年齢、先輩・後輩が、とかいうことはあんまり意識はしてなかったんですけど。ま、ただ名人戦、初めて出て、ま、やっぱり、あと何回出れるかって考えた時に、そんなにチャンスはたぶん多くないだろう、っていうのはあったんで。ま、取れるんだったら今回なんとかしたいって気持ちはまあ、ありましたね。はい」

村瀬「豊島名人とはまあ、これまでもタイトル戦たたかったことがありますけれども、改めて今回七番勝負を戦っての印象を教えていただけますか?」

渡辺「この1、2年はまあもう、いろんなところで、タイトル戦とか挑決とかいろんなところで当たるので。ま、お互い、手の内はある程度わかってるとは思うんですけども。まあやっぱり今回やっぱりそうですね、2日制でっていうことで、けっこう序盤からプレッシャーをかけられることも多かったので。やっぱりそのあたりのなんか、作戦面の準備もかなり必要とされる相手ですし。まあ大変なところが多かったっていう、まあ、そういう印象ですね、はい」

村瀬「今回タイトル獲得は、初タイトル獲得は二十歳(はたち)の時だったと思うんですが、その時と比べて新しい勢力が台頭したりとかですね、タイトル保持者の顔ぶれが変わったりとか、年月(としつき)が経ってのこの、タイトル獲得の意味合いみたいなのは変わってくるんじゃないかと思うんですけれども、そのあたり、あと今後、そういう時代をどうたたかっていくかということを、ちょっと教えていただきたいんですが」

渡辺「えーと・・・。まあそうですね。うーん。やっぱりこの年齢になってくるとなかなか『また次がある、次がある』というふうには、考えないところはあるので。そのあたりはやっぱり二十代の時はなんかまあ、次があるかな、という感じでやっていたところもあるんですけども。ま、なのでそうですね、やっぱりタイトル戦に出れる棋士のキャリアとしてはやっぱり後半戦に来てるんで。なのでまあ、やっぱりそのあたり、いつまでやれるかってことも含めて『チャンスはあとどれぐらいあるかな』というようなことは、今回も考えましたけどね」

村瀬「ありがとうございました」

司会「それでは渡辺名人に質問のある方は挙手をお願いします」

真島「共同通信の真島と言います。よろしくお願いします。今年は大変な変則な日程で、しかも他のタイトル戦とも並行しておこなわれると。そういう日程的な大変さと、それからそういうことに対する備えとか、気持ちとか、そういうふうはどのように準備されたんでしょうか?」

渡辺「えーと、そうですね。日程的にはまあどうしてもきつい部分はあったんですけども。うーん、まあでもそうですね、それはなんか、みんな同じ条件というところはありますし。今タイトル戦出て活躍してる人は、けっこうみんなやっぱり、大変な日程でやってるところはあるんで。まあその中でそうですね、なんか体調面と研究のバランスっていうか、そのへんのことはやっぱりちょっと大変だったと思うんですけども。うーん、ま、そうですね、やっぱりなかなか、まあこういった状況でタイトル戦やるっていうのはまあ、これから先何度もあることではないと思うので。なのでまあ仕方がないかなっていうか。そういう日程面とかまあ、そのへんはまあ仕方がないかなって感じでやってました」

司会「他に質問のある方、いらっしゃいますでしょうか?」

筒崎「スポーツニッポンの筒崎です。ちょうど1か月ぐらい前に棋聖戦で藤井(聡太)さんに負けられましたけども、そこからの気持ちの立て直し方、とかっていう部分についてはいかがでしょうか?」

渡辺「えーと、そうですね。まあ、立て直し・・・。ま、6月に棋聖戦と名人戦と両方始まって、しばらくはその2つが並行して続いていって、っていうような。そこで、それが2つ終わって一区切りというような感じで考えていたんで。なので棋聖戦負けて、まあなんか、それで落ち込むようなところはあんまりなかったんですけど。すぐにまた名人戦あったので。うーん。なのであんまり、棋聖戦からの立て直しみたいなところ、そういった意識はあまりなかったですかね。その、2つ続いていく延長の中でまあ、戦って。両方負けたらちょっとやっぱり、立て直しみたいな意識は出てくるかなとは思ってましたけど。なのでとりあえず2つやってまあ、結果が出たとこで、なんか、ちょっとこの先の目標とかまた考えようかなっていうような意識だったんで。はい」

筒崎「ということはじゃあ、まああまり棋聖戦の結果うんぬんというよりは、もう目の前の名人戦に気持ちを集中させるという感じで乗り越えてこられたという感じですか?」

渡辺「うーん、まあ、そうですね。そうといえばそうだし・・・。うーんと、まあ、6月に再開してからはバタバタっといろんな対局をけっこうやってきたので、あんまり一区切りみたいな場面はなかったんですよね。なので棋聖戦が終わってもわりとこう、対局があったんで。そのあたりの振り返りとかっていうのはまあ、ちょっとこれからっていうか。タイトル戦が一区切りついて、これからしたいかなっていうことは思ってます」

筒崎「ありがとうございました」

司会「他に質問のある方、いらっしゃいますでしょうか」

田嶋「AbemaTVの田嶋です。おつかれさまでした。先ほど、今シリーズの内容を聞かれた時に『苦しい場面が多かった』ということだったんですけど、そんな中で結果を残せた勝因っていうのはどのあたりにあると考えてますか?」

渡辺「えーと・・・。ま、そうですね、スコア的にも内容的にもやっぱりシーソーゲームがずっと続いてたんで。先週(第5局)の将棋も苦しかったんですけど、それをなんとか耐えて勝つことができたので。それで今日に向かってはいい流れで来れているかな、っていうか。なのでまあ、その流れをそうですね、継続してまあ今日、なんとか勝ちたいなということは思ってましたけど」

田嶋「ありがとうございます」

筒井「スポーツ報知の筒井と申します。おめでとうございます。名人になったということは、今まで毎年きびしい戦いがあった順位戦から解放されるということでもあると思うんですけど。来年からの防衛っていうことにつきまして、いま若手が台頭している将棋界で、受けて立つ立場として、どういうふうに思っておられるのかを聞きたいんですけれども」

渡辺「そうですね、うーん・・・。ま、このタイトル戦の結果次第で9月以降の過ごし方もだいぶ変わるだろうな、とは思ってましたけども。それでもそうですね、今年はやっぱり開幕が遅かった分、来年もすぐにまた来てしまうというようなところはありますし。なんか結局、他の対局やタイトル戦なんかが始まると、バタバタっとまた次が来てしまうかなというようなところもあるので。まあそうですね、6月からでもまあタイトル戦、やっぱり続いてきたので、ちょっと次のことはしばらく考えたくないという感じですかね(笑)。はい」

筒井「若手の台頭という意味の、藤井棋聖の、ありますけれども、そういった意味で世代闘争といいますか、そういう面ではいかがお考えでしょうか?」

渡辺「ああ、そうですね。えーと・・・。まあやっぱり何歳ぐらいまでタイトル戦出れるかっていうところは意識するところではあるし。まあそれは、そうですね、年々厳しくなるとは思うので。うーん。やっぱりタイトル戦に出る機会がずっと続くというわけではないですからね。この年齢になってくると。なのでまあ、うーん、そのあたりの・・・。まあ、目の前の対局と目の前の相手に向かっていくだけでせいいっぱいってところはあるんですけども。ただまあ、40歳になったときにやっぱり、どれぐらい持ちこたえられるようにするかみたいな、そういった長期的なこともまあ考えながら、一応取り組んではいます」

村上「朝日新聞の村上です。本局に臨むにあたってですね、どういう心境になるか。要するにその、あと1勝という対局を臨むのによって、どういう心境になるかやってみなければわからない、みたいなことをおっしゃってたかと思うんですけども、対局を実際にやってみて、自分の心境っていうのはどうだったのか教えていただけますか?」

渡辺「えーっと、ま、そうですね。先週からはあんまり時間がなかったんで。その間がもうちょっと長ければたぶん余計なこともいろいろ考えたとも思うんですけど。時間がなかったので、余計なことを考えずにすんだのはまあ、よかったかなとは思うんですけど。いざ始まってみると、そうですね、うーん。なんか普段通りにはちょっと決断できなかったりとか。やっぱり、一手一手の重みはやっぱり、昨日からすごい感じましたし。うーん。そのあたりはやっぱり、その、力みみたいなのは当然あったんだとは思います。やっぱり、はい」

藤崎「ABEMAの藤崎です。おめでとうございます。ええと、いまずっと生放送でコメント見てるんですけども、やはりあの、渡辺新名人の笑顔と、皆様への一言が欲しいということなので、ぜひともこちらの田嶋がいまつけてるカメラの方にですね、一言よろしくお願いいたします」

渡辺「えー。なんだろう(笑)。えー。次、あれあるんで。(AbemaTVトーナメント)決勝あるんで(笑)。ははは。次の日曜日でしたっけ?(22日、土曜日)そこでなんかしゃべります、はい」

藤崎「決勝お待ちしてます。ありがとうございました」

司会「それでは以上で記者会見を終了させていただきます。渡辺名人、おつかれさまでした」

(渡辺名人退室)

(8月15日夜、関西将棋会館)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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