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2勝2敗2持将棋! いよいよ第9局も見えてきた? 死闘続く叡王戦七番勝負、第6局は豊島挑戦者が制す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月1日。大阪・関西将棋会館において叡王戦七番勝負第6局▲豊島将之竜王・名人(30歳)-△永瀬拓矢叡王(27歳)戦がおこなわれました。14時に始まった対局は21時18分に終局。結果は139手で豊島挑戦者の勝ちとなりました。

 七番勝負の結果はこれで両者ともに2勝2敗2持将棋(引分)。少なくとも第7局では決着がつかないことが確定しました。両者このあと1勝ずつをあげると、将棋界の七番勝負では過去に例のない第9局を迎えることになります。

横歩取りからまたもや大熱戦

 豊島挑戦者先手で、戦型は横歩取り。最初は豊島挑戦者の模様がよく、やがて永瀬叡王がリードを奪い、そこからまた豊島挑戦者が盛り返して、白熱の終盤戦を迎えました。

 75手目。豊島挑戦者は自陣に銀を埋めて永瀬叡王の龍にあて、龍を追い返します。持ち時間3時間のうち、残り時間は豊島挑戦者36分、永瀬叡王15分。形勢、残り時間ともに接近してきました。

 83手目。豊島挑戦者はさらに中段に金を打ちつけて龍を追います。将棋史に残る死闘の叡王戦七番勝負。本局もまた、壮絶な終盤戦の様相を呈してきました。

 永瀬挑戦者は持ち時間を使い切って、あとは60秒未満で指す一分将棋に入ります。

 88手目。永瀬叡王は豊島玉の頭、玉と角の焦点、タダで取られるところに桂を打ちます。時間がない中で、驚くべき鬼手をたたきこみました。

 永瀬叡王は角で桂を取られて桂1枚の損。さらに継ぎ桂で2枚目の桂を捨てます。そして勢いよく3枚目の桂が跳ね出しました。当たりになっている角を逃げられない豊島挑戦者はもう1枚の角を打って辛抱します。このやり取りで角1枚と桂3枚という、ほとんど見られない交換がおこなわれました。

 永瀬叡王がうまくやって抜け出したようにも見えます。しかし形勢はまだ難しい。

 99手目を考慮中に豊島挑戦者もまた一分将棋に入りました。勝敗はまったく不明。本局もまた、手に汗握る終盤戦となりました。

 106手目。対局室である御上段(おんじょうだん)の間に秒読みの声が響く中、永瀬叡王は銀を打って王手をかけます。

「△6九銀! △6九銀はね・・・」

 ニコニコ生放送解説の郷田真隆九段はここで言いよどみます。棋士の目から見れば、これはあまり感触がよさそうにもない王手だったようです。

「王手は追う手」

 と格言は教えます。相手の王手に応じる形で、豊島挑戦者の玉は中段に逃げていきます。郷田九段の直感は正しかったようで、ここで形勢は豊島挑戦者に大きく傾きました。終盤のミスは勝負に直結します。形勢は豊島勝勢となりました。

 もちろん勝負は最後までわかりません。この叡王戦では、これまでにどれだけ形勢逆転が繰り返されてきたでしょうか。

 122手目。非勢の永瀬叡王は豊島玉の頭に歩をたたいて王手をかけます。これもまた悩ましいところ。そして豊島挑戦者は力強く同玉と取りました。これは強く勝ちにいった手です。

稲葉「ちょっと不安な感じがしますけど、大丈夫ですかね」

 解説の稲葉陽八段が声をあげます。

郷田「大丈夫じゃなくてもおかしくはない気もしますね」

 永瀬叡王は豊島玉を猛然と追い込んでから、下駄をあずけます。

 手番は豊島挑戦者に回りました。一手でもミスがあれば逆転というきわどい情勢で、豊島挑戦者は正確に永瀬玉を追っていきます。

 半袖シャツ姿の永瀬叡王は背を丸くして盤上を見つめます。そして玉を逃げ続けながら、一瞬、中空を見上げました。

 139手目。豊島挑戦者は桂を打って王手をします。この桂を同角と取れば、永瀬玉に詰みはありません。しかし急所の角を抜かれることとなり、攻防ともに見込みがなくなります。

 永瀬叡王は白いマスクをつけました。立会人の阿部隆九段が盤側に座ります。

「50秒、1、2、3、4」

 秒読みの声が読まれる中、永瀬叡王は静かに頭を下げました。

 これで第6局は豊島挑戦者の勝ち。星は互いに2勝2敗2持将棋(引分)となりました。史上初の2持将棋が生じた死闘の七番勝負は、史上初の第9局までたどりつくことになるのでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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