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佐藤天彦九段(32)深夜の終盤戦を制してA級順位戦開幕2連勝 羽生善治九段(49)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月28日。東京・将棋会館においてA級順位戦2回戦▲羽生善治九段(49歳)-△佐藤天彦九段戦がおこなわれました。10時に始まった対局は翌日0時18分に終局。結果は118手で佐藤九段の勝ちとなりました。

 これで佐藤九段は2勝0敗。羽生九段は1勝1敗となりました。

佐藤天彦九段、一気の寄せで制勝

 コロナ禍の影響で開幕が遅れた名人戦七番勝負。本日28日はちょうど第4局2日目の対局がおこなわれました。

 現時点では豊島将之名人2勝、渡辺明二冠2勝。七番勝負はいま流行中(?)の持将棋などなければ、8月に決着がつくことになっています。

 A級1位(名人戦敗退者)が誰なのかは決まらないまま、A級順位戦の方は2回戦が進行中です。

 羽生九段は1回戦で新A級の菅井竜也八段に勝ちました。

 一方の佐藤天彦九段は三浦弘行九段に勝っています。

 羽生九段と佐藤九段の過去の対戦成績は羽生9勝、佐藤12勝。タイトル戦では3度対戦し、王座戦五番勝負では羽生九段、2度の名人戦七番勝負は佐藤九段が制しています。

 本局は羽生九段先手で角換わり腰掛銀に進みました。複雑に手待ちを繰り返して互いに間合いをはかりながら最善形をキープしようとするやり取りのあと、羽生九段は桂を跳ねて仕掛けていきます。以下はしばらく、過去の前例と同じ進行をたどります。

 53手目。羽生九段は遠く相手陣にまで利く角を打って端二段目に打ちます。棋聖・天野宗歩の昔以来、「名角」となることが多い位置です。

 70手目。佐藤九段は守りの金をまっすぐ立って、羽生九段の飛車に当てました。これが前例のない受けの手でした。その後は形勢はあまり離れることなく、力のこもった攻防が続いていきました。

 18時40分。夕食休憩を終え、夜戦に入ったところで、佐藤九段は自陣の歩を払って受けます。この時点で80手。両者ともに比較的時間に余裕をもって、終盤に入ったようです。

 佐藤九段は羽生九段の自陣角を攻撃目標としながら、なおも守りの金を前進させていきます。そして盤上中央の羽生九段の銀と交換となり、持ち駒となった銀は羽生玉を上部から押さえる位置に据えられます。

 最終盤は深夜の戦いになりました。

 103手目。羽生九段は佐藤玉のすぐわきの銀取りに歩を打ちました。これはどう応じるのか悩ましいたたきでした。佐藤九段はじっと銀を引いて辛抱をします。

 羽生九段は続いて王手で歩を打ちました。これもまた悩ましいたたきです。そしてまた、佐藤九段はじっと玉を下段に引いて辛抱しました。2回の歩のたたきが効果的に利いて、形勢はこのあたりで羽生九段よしに傾いていたかのようにも見えました。

 しかしほどなく、佐藤九段の辛抱が実る時が来ました。

 107手目。羽生九段は端に跳んできていた佐藤九段の桂を香で取ります。この手がどうも敗着のようです。

 残り時間は羽生20分、佐藤24分。佐藤九段はここで時間を投入して考えます。

 そして飛車を切って銀と刺し違え、羽生玉の一気の攻略を目指します。佐藤九段は取った銀を王手で打ち、上から押さえて受けなしに追い込みました。

 あとは佐藤玉が詰むや詰まざるや。羽生九段は強力な飛車を手持ちにして、前に利かせた歩を拠点に金を打ち込みます。王手。しかし堂々と応じられてみると、きわどいながらも佐藤玉はわずかに詰みません。さらに王手が続く形ながら、羽生九段は詰みなしと見て潔く駒を投じました。

 佐藤天彦九段、大きな1勝を挙げました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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