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名人戦第4局は渡辺明挑戦者が豊島将之名人を降して2勝2敗のタイに(終局後両対局者インタビュー全文)

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月27日・28日。東京都文京区・ホテル椿山荘東京において第78期名人戦七番勝負第4局▲渡辺明二冠(36歳)-△豊島将之名人(30歳)戦おこなわれました。27日9時に始まった対局は28日18時58分に終局。結果は101手で渡辺挑戦者の勝ちとなりました。

 七番勝負はこれで豊島名人2勝、渡辺挑戦者2勝のタイとなりました。

 第5局は8月7日・8日、東京・将棋会館でおこなわれます。

名人、静かに投了

 30分の休憩を終えて18時30分、対局再開。形勢は渡辺挑戦者勝勢です。

 99手目。18時37分頃、渡辺挑戦者は豊島陣一段目に角を打って王手をかけました。残り時間が切迫している豊島名人。すぐに秒読みの声がかけられます。

 100手目。豊島名人は飛車を移動させて角筋をふさぎます。2分を使って、残りは4分。対して渡辺挑戦者には2時間8分ほどの時間があります。

 名人はマスクをしています。一方の挑戦者はマスクをはずし、慎重に考え続けます。

 18時55分頃、渡辺挑戦者は桂を据え、豊島玉の上部脱出ルートをふさぎます。消費時間は14分。慎重を期した上での着手でした。

 残り4分の名人。すでに勝負を争っている雰囲気はありません。そしてマスクをつけ変え、羽織を着ました。観戦者の目にも、これは終局に備えての準備と映ります。

 名人は持ち時間を使い切り、残り1分となりました。そして静かに盤上を見つめ続けます。

「40秒」

 記録係の秒読みの声が響きます。一呼吸をおいたあと、豊島名人は静かに「負けました」と告げ、頭を下げました。

 渡辺挑戦者は一礼を返したあと、少し首をかしげ、中空を見上げました。

渡辺明挑戦者、終局後インタビュー

渡辺挑戦者「(先手番で矢倉脇システムを採用し1筋の)端の位を取るのは作戦だったんですけど。そのあとはちょっとやったことない将棋だったので。ちょっとよくわからないと思いながら指してたんですけど。(61手目は55分の長考で)▲3九金は変な手なんで。ただちょっと代案が見つからなかったので、消去法という感じで指してました。ちょっと他の手を探してた時間ですかね。(67手目▲6一角で1日目が終わり)本譜も含めてあんまり見通しが立たない変化が昨日のうちに浮かんできたんで(2日目朝に封じ手が開封されて)再開してからまた考えようかなって感じで。(73手目▲8三銀は59分の長考で)もう終盤戦なんで。代案がないんでそういう感じになって。形勢はよくわかんなかったです。(82手目△7七銀と王手で打ち込まれた前後は)成算がそんなにあったわけじゃないんですけど(79手目)▲3四歩垂らしたあたりはもうしょうがないかなと思ってやってたんで。なんかあんまり手が広い将棋じゃなかったんで。手が狭い分、形勢はちょっとよくわかってないんですけど。△7七銀のところは(▲同桂か本譜の▲同金か)取り方はいろいろあると思ったんですけど、うーん・・・。ちょっとわかんなかったです。▲同桂から面倒を見る展開の方が正しいような気もしたんですけど、そのあとがでも、どっちみちいやな思いをすると思ったんで。(89手目)▲5八飛と角取ったあたりは余してるとは思ってたんですけど、その前はちょっとなんか・・・。なんかわかんない変化もあるような気もしてたんですけど。(▲3三金の王手に△5三玉と逃げられた手は意外だった?)そうですね。△5二玉でもはっきりどうしていいかわからなかったです。ちょっとそのあとの変化で誤算があったんで。(代わりに△5二玉と逃げられたら)ちょっとまた考えるつもりだったんですけど。なんかもう終盤戦なんで、わかんないです。手遅れだったかもしれないですけど。また考えようかという予定でした。(94手目△8六歩の王手に)本当は▲8六同玉でも(△7八角成と飛車を取られたあと、豊島玉は)詰むつもりだったんで、あそこは微妙な読み抜けがけっこうあって。あのあたりで(本譜のように▲7六玉と)予定変更してるようではおかしいんですけど、なんかそういう感じになっちゃいましたね。(一局を振り返ると)2日目の指し手はちょっとわからないところもあったんですけど、全体的には手がせまい将棋だったんで、△7七銀と打たれたあたりぐらいしかあんまり選択肢がなかったんで。そもそもどこまでさかのぼるかという感じになるのかなと思いながらやってたんですけど。(2勝2敗となり)タイに戻すことができたので、後半戦も力いっぱいがんばりたいと思います」

豊島将之名人、終局後インタビュー

豊島名人「(矢倉になったらこの格好になるという想定は?)矢倉もいろいろあるんで考えませんでした。(60手目)△4九角と打ってそれなりにいい勝負なのかなと思ったんですけど。▲3九金はちょっと打ちづらいのかなと思ったんですけど、打たれて考えていくうちに、ちょっと自信がなくなったので。(62手目△2七銀は1時間50分の長考で)単に(△6七角成と)切ると、ちょっとまた▲6一角打たれてきついので。(1日目を終えて封じ手△7六歩としたあたりは)あんまり自信がなかったです。(79手目)▲3四歩に相手するのはちょっと利かされで。でも本譜はちょっと負けを早めて・・・。でも(△5八)角は打てたら打ちたい。それか、角打たないで△8六歩とか一本突いておくと、どう取られるのかわからなかったんですけど。本譜でダメだったら、そっちの方がよかったかもしれないです。(△7七銀に代えて△4七角成は)▲6七飛の味がいいのでちょっと・・・まずいのかなと。まずいというか、本譜もいろいろ選択肢があるので、負けの順がありそうな気はしたんですけど。(88手目、残り1時間1分のうち22分を使って△5三玉と逃げたけれど、代わりに△5二玉は?)△5二玉は(▲4二金と)飛車取られて(△同金に)▲8二飛打たれて。飛車取って飛車打たれて負けなのかなと。いやちょっと、ちゃんと読めてなかったです。(86手目)△8六歩突くところで△7六角成としてもたぶん、ちょっと負けなんだろうなと。(本局を振り返ると)自信を持った局面はないですかね。難しいつもりで指し進めていって、考えたらあまり自信がないというか。そういう局面が多かったです。(2勝2敗となり)また切り替えてがんばりたいと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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