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竜王戦ドリーマー梶浦宏孝六段(25)本戦破竹の4連勝 元竜王・佐藤康光九段(50)にも逆転勝ち

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月27日。東京・将棋会館において第33期竜王戦本戦▲佐藤康光九段(50)-△梶浦宏孝六段(25)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は22時26分に終局。結果は123手で梶浦六段の勝ちとなりました。

 梶浦六段は次戦、挑戦者決定戦進出をかけて羽生善治九段(49)と対戦します。

梶浦六段、最終盤の劇的な逆転で勝ち上がる

 竜王戦は1987年に創設されました。佐藤康光九段は第1期以来ずっと参加し続けています。1993年、24歳七段の時に同世代のライバルである羽生善治竜王(当時五冠)に挑戦し、4勝2敗で七番勝負を制し、竜王位に就いています。

 以来、佐藤九段は竜王戦の主役の一人として活躍を続けてきました。

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 佐藤九段は今期、1組の4位決定戦で永瀬拓矢二冠を降し、実に18回目の本戦出場を決めています。

 梶浦六段は昨年の6組優勝に続いて5組にも優勝。規定により五段から六段に昇段しました。また7月6日の誕生日を迎えて25歳になったばかりです。本戦出場は2年連続2回目です。

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 梶浦六段は昨年、本戦は初戦で敗れました。しかし今年は高野智史五段、石井健太郎六段、木村一基王位を連破して勝ち上がってきました。

 6組、5組などから出場者した若手棋士が本戦を勝ち進み、高額の対局料を獲得していく状況は「竜王戦ドリーム」と表現されます。ただし6組、5組から挑戦者が出たことはありません。過去にはそれだけ上位の壁は厚かったということを物語っています。

 本局。後手番の佐藤九段は一手損角換わりから向かい飛車の作戦を採用しました。

 中盤、梶浦六段は自陣に筋違い角を打ち、佐藤陣の一歩をかすめとります。この角のはたらきが本局の命運を左右することにもなりました。

 互いに桂を取り、と金を作り合ったあと、梶浦六段はと金を捨てて銀を打ち、飛金両取りをかけます。

 対して佐藤九段は飛を逃げて金を取らせた後、梶浦陣に銀を打って飛車を圧迫し、と金を寄せていきます。

 難解な終盤戦ながら梶浦陣に残った角のはたらきは弱く、わずかに佐藤九段が優位に立ったようです。

 互いの玉に王手がかかり、一手を争う最終盤。形勢は佐藤九段勝勢となりました。しかしそこからドラマが起こります。

 97手目。梶浦六段が端に玉を逃げた時点で残り時間は梶浦7分、佐藤3分。

 98手目。佐藤九段は相手陣の馬を動かし、桂を取ります。ここはまさに指運というところ。この一手で形勢は逆転しました。

 99手目。梶浦六段は7分のうち2分を使って佐藤玉に王手をかけます。佐藤玉には四十手近くにも及ぶ詰みが生じています。

 117手目。梶浦六段はずっと自陣にとどまっていた角を三段目に出て王手をかけます。佐藤九段が馬を動かしたために、この角出が生じたのでした。

 121手目。梶浦六段は角を成り込んで捨て、華麗なフィニッシュ。詰将棋のようにきれいに、佐藤玉は詰んでいます。

 梶浦六段は強敵の佐藤九段を降して、本戦ベスト4に進出。次戦では1組優勝の羽生善治九段と対戦します。

 羽生九段にはタイトル通算100期という大記録がかかっています。その挑戦に向け、羽生九段応援の声は圧倒的なものとなるでしょう。そうした中で、竜王戦ドリーマー、梶浦六段の戦いぶりは実に注目されます。

 梶浦六段の師匠は鈴木大介九段です。

 1999年。鈴木五段(当時25歳)は竜王戦本戦を勝ち上がって挑戦権を獲得。六段に昇段しました。七番勝負では藤井猛竜王(当時)を相手に1勝4敗で敗退となりましたが、印象に残るシリーズとなりました。

 師匠に続いての竜王戦七番勝負登場は実現するでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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