神童・藤井聡太七段(17)魔神のごとき終盤力で木村一基王位(47)に大逆転勝利 王位戦第2局を制する
7月13日・14日。北海道札幌市・ホテルエミシア札幌において第61期王位戦七番勝負第2局▲木村一基王位(47歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦がおこなわれました。
13日9時に始まった対局は14日19時40分に終局。結果は144手で藤井七段の勝ちとなりました。
七番勝負はこれで藤井挑戦者2連勝となりました。
第3局は8月4日・5日、兵庫県神戸市・中の坊瑞苑でおこなわれます。
この将棋まで勝つのか、藤井聡太・・・
木村王位先手で、戦型は相掛かり。2日目午後には、木村王位がはっきり優勢に立ちました。
91手目。木村王位は藤井陣中央に角を成り込みます。53手目、昼休明けに端に出た角が、ついに馬へと出世しました。藤井玉は居玉のままで、それほど粘りが効く形ではありません。木村王位が優勢のまま、終盤に入りました。残り時間も33分で、比較的余裕があります。
藤井七段は金を上がって馬にぶつけます。1分を使って、残りは9分。上手い寄せがあれば、そのまま木村王位の勝ち。しかしそう簡単には、ゴールは見えてきそうもありません。
両者ともにマスクをはずし、いくぶん前かがみになって盤上を見つめます。
藤井七段は中盤で作った龍を受けに使って、必死の防戦を続けます。一手でもゆるめば、たちまちのうちに逆転となりそうです。
98手目、藤井七段は馬取りに、6筋に歩を打ちます。その時点で、残り時間は木村20分、藤井4分。ここで木村王位は5分を使いました。そして馬の利きの先に銀の捨て駒を打ち、藤井玉に王手をかけます。これが「終盤は駒の損得より速度」の格言通りの一手。
木村王位は角銀を渡す代わりに藤井陣の受けの要である強力な龍を消し、藤井玉の上部に成香を作りました。
さすがの藤井七段も本局はこれまでか・・・。そう思われたところから、藤井玉はしぶとく、そう簡単には寄りません。強者の玉の生命力はおそろしく強い、ということを思い起こさせる終盤です。
棋聖戦第3局では、渡辺明棋聖が優位に立ちながら、藤井七段が手段を尽くして、最後はギリギリの勝負になっています。
木村王位は少しずつ時間を消費していきます。
「いやあ・・・」
記録係の秒読みの声にまじって、木村王位のぼやき声が聞こえてきます。
木村王位の残り時間は4分。ついに藤井七段と同じになりました。そして109手目。木村王位は自陣三段目の歩を、じっと銀取りに突き出します。これが木村王位の底力を示すかのような、落ち着いた一手でした。
木村王位は左手で手ぬぐいを握りしめ、歯が痛いようなポーズで頬に口元に手ぬぐいを当てます。
ソフトが示す評価値だけを見れば、ずっと木村王位が勝勢と言える点数です。しかしわずか一手の誤りで逆転してしまうのが将棋です。そして藤井七段はずっと、一手の誤りでひっくり返せるだけの局面をキープしてきました。
形勢は逆転には至りません。しかし残り時間はついに逆転。木村2分、藤井3分となりました。
122手目。藤井七段は5筋三段目、自玉頭に香を打ちます。これが上部をケアしながら先手玉へも利かせる攻防手。68手目、2筋に香を打った手と並んで、何度も何度も、目がくらむような勝負手を放ってきます。
評価値は少しずつ藤井七段側に巻き戻っていきます。藤井七段が猛烈に追い込んで、もうどちらが勝ってもおかしくない流れになりました。
木村王位は1分を使って、ついに一分将棋。そして玉を7筋に早逃げします。藤井七段は飛金両取りで角を打ち、追撃。
125手目。木村王位は4筋二段目、銀取りに歩を打ちました。
そしてついに――。
形勢はついに逆転しました。
126手目。藤井七段も2分を使って一分将棋。そして角で木村陣の金を取ります。これが正確な速度計算に基づく一手でした。魔神のような終盤力です。
形勢大逆転。木村玉は左右はさみうちに追い込まれました。一方で藤井玉はと金の追及をかわし、早い足で逃げ切りの形です。
秒を読まれながら、詰まない藤井玉に向かって、木村王位は王手を続けます。
144手目。藤井七段は盤の中空で玉を泳がせるように逃げます。そしてつかまりません。
「負けました」
木村王位は投了を告げた後、深いため息をつき、部屋の中空を見上げました。
おそるべきは、この大逆転劇を呼び寄せた藤井七段の実力。私たちはまた、リアルタイムで伝説を目の当たりにしました。言葉がありません。