盤上を駆け上がる金は新時代の到来を告げるのか? 藤井聡太七段(17歳)棋聖戦第2局で前進続ける

(記事中の画像作成:筆者)

 6月28日。東京・将棋会館において第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局▲渡辺明棋聖(36歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦がおこなわれています。

 渡辺棋聖の先手で、急戦調の矢倉となりました。

 41手目。飛車先の歩を交換した渡辺棋聖は、自陣一段目まで飛車を引きました。

 このあと先手と後手、どちらももう少しずつ穏やかに駒を進めるのではないか。おそらくはほとんどの観戦者がそう思っていたところでした。

 考えること、わずか12分。藤井七段は自陣三段目の金を、力強く四段目に上がりました。これは「まさか」という一手です。

「金は斜めに誘え」

 という格言があります。金は守りの要です。ただし銀と違って、金は斜め後ろには進めません。そのため斜め上へと上がっていくと、すぐにはバックできずに上ずってしまい、そのスキを攻められてしまう可能性が生じるわけです。

 藤井七段の金上がりは、その格言の逆をいくものです。守りの要である金を積極的に前線に押し出し、渡辺棋聖の応手を問いました。

 じっとしていては跳ね出した桂を取られてしまうので、渡辺棋聖は飛車を4筋へと回ります。これは常識的な一手です。強力な飛車で前線を支えるとともに、4筋の藤井玉に、ぴたりと照準を定めています。

 対して藤井七段は4筋、玉のすぐ真上に飛車を回りました。

「玉飛接近すべからず」

 という格言があります。玉と飛が近いところにいると、効率よくその両方を攻められてしまい、すぐに受けが困難になる場合が多々あります。

 旧来の常識を持つ観戦者からすれば、藤井七段の構想は本当にいいのかどうか、にわかには判断がつきません。このあたりまで、事前に研究範囲としてカバーされていたのか。それとも対局室で思いついたものなのか。

 渡辺棋聖の手番で12時、昼食休憩に入りました。

 渡辺棋聖は第1局に引き続き、うなぎ連投となりました。前回は将棋会館近くにある「ふじもと」から。本日は日曜日のため、千駄ヶ谷界隈はお休みの店が多く、渋谷「松川本店」からでした。

 格上の渡辺棋聖がうな重・桜(税込4510円)を頼むと、藤井七段の側は比較的手が広い。藤井七段の選択は海老天重(税込2860円)でした。(若年の挑戦者の側が安いものを頼まなければならないということはありません、念のため)

 先日、やはり将棋会館でおこなわれた名人戦第3局(2日制)では、渡辺棋聖は寿司の連投でした。渡辺棋聖は将棋会館でのタイトル戦は、うなぎか寿司、どちらかと決めているようです。

 13時30分、対局再開。

 45手目、渡辺棋聖は左側の銀を引いて、角筋を通します。

 対して藤井七段は50分考え、攻めの桂を跳ねます。持ち時間4時間のうちの50分なので、これは長考と言えるでしょう。中盤で惜しみなく時間を投入するのが、藤井七段のスタイルです。

 対して渡辺棋聖は2分で着手。攻めで跳ね出した4筋の桂に活を入れるべく、3筋の歩を突っかけます。

 ここで再び、藤井七段は長考に入ります。14時前、藤井七段はマスクをはずし、少し長い時間、おしぼりで顔をぬぐっていました。そしてそのままマスクはつけず、盤面を見つめます。

 将棋界ではマスク着用は「推奨」されているものの、ずっとつけていなければならない、というわけではありません。最近では途中からマスクをはずす対局者が多くなったようです。

 藤井七段がマスクをはずして5分ほどして、渡辺棋聖もマスクなしとなりました。

 藤井七段が盤上を見つめている間、渡辺棋聖は何度か顔を上げ、藤井七段の顔をじっと見据えていました。藤井七段の表情から、何か読み取れることはあるのでしょうか。

 今度は58分ほど考え、藤井七段は攻めの桂を中段に跳ね出します。五段目に桂、そのすぐ下に銀金銀と並び、勢いよく前進していく藤井七段。金はさらに五段目にまで進み、桂得の戦果を得ています。

 前に出てくる藤井七段に対して、渡辺棋聖はカウンターの角を放ちます。まだまだ難しい形勢ではありますが、ここではわずかに藤井七段がリードを奪ったようです。

 16時半を少し過ぎた時。

 藤井七段は玉のそば、自陣一段目に銀を打ちつけました。これもまた、誰もほとんど予想もできないような受けの手です。次々と意外な手を放つ藤井七段。もしこれでよしとなれば、盤上の内容としても、新時代の到来を感じさせる一局となりそうです。