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これぞ負けない永瀬将棋! バナナもぐもぐからの千日手成立! 叡王戦七番勝負第1局は同日指し直しへ

松本博文将棋ライター
(提供:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 6月21日。静岡県賀茂郡河津町「伊豆今井浜温泉 今井荘」において叡王戦第1局▲永瀬拓矢叡王(27歳)-△豊島将之竜王・名人(30歳)戦がおこなわれています。棋譜は公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は20時20分、113手で千日手が成立しました。

 規定により30分休憩の後、先後を入れ替え、同日20時50分に指し直しとなります。

叡王は千日手大好き

 戦型は角換わりで、両者ともに早繰り銀。ハイペースで進行して昼食休憩までに62手進みました。

 豊島挑戦者は角を打って永瀬陣に成り込んで馬を作り、自陣に引き上げます。対して永瀬叡王は相手の手に乗って、上部に広くふくらんだ陣形を築きます。

 対局者に提供されるおやつはローソンのスイーツ。

 見ていると食べたくなるので、筆者もあとで出かけて買ってきました。

 盤上五段目までをほぼ永瀬叡王の駒が支配しているのに対して、豊島挑戦者は自陣三段目から下に駒をひそめ、じっと反攻のチャンスをうかがいます。

 80手目。豊島挑戦者は玉側の桂を跳ねます。桂頭がキズになるのが見えているだけに、決断の一手です。

 叡王戦第1局の持ち時間は各5時間(チェスクロック方式)。昼には1時間、夕方には30分の休憩が設けられています。

 18時30分、対局再開。

 豊島挑戦者は自分の馬と永瀬叡王の自陣角を交換。上部に伸びたために下段にスキのある永瀬陣に角を打ち込み、と金を作って追い上げをはかります。

 対して永瀬叡王は落ち着いて対応。永瀬陣は居玉ながら、上部に向かって矢印のように並んでいる駒の厚みと、右辺に広がるスペースが有利にはたらいています。形勢はどちらかといえば永瀬叡王に分があるようです。

 19時半過ぎ。永瀬叡王はもぐもぐとバナナを食べていました。

 ABEMAではこの時間、過去に収録されたAbemaTVトーナメントが放映されています。

 永瀬叡王が率いるチーム「バナナ」の動向も気になるところ。叡王戦とどちらをメインに見ようか、迷った人も多いことでしょう。(筆者は叡王戦を選び、ABEMAは後で見ることにしました)

 96手目。豊島挑戦者は馬を引いて、と金とのコンビネーションで永瀬叡王の飛車をねらいます。もし飛車の追いかけっことなれば、千日手の可能性が濃厚です。

 ここは正確な形勢判断が問われるところです。もし形勢が互角に近く、手を変えるのが難しいというのであれば、千日手が見られそうです。永瀬叡王は棋界屈指の千日手好きとしても知られています。

 解説陣から「千日手?」という言葉がしきりに聞かれ始めます。仕切り直しのための準備があり、また終局時間が格段に遅くなるため、運営側、解説陣、報道陣などからは、どちらかといえば千日手は歓迎されません。

 そして永瀬叡王の手が動きました。解説陣の悲鳴が聞かれる中、永瀬叡王は千日手に進む順を選びました。

 豊島挑戦者のと金、永瀬叡王の飛車が互いに上下して追いかけっこを繰り返します。そして同一局面4回目を迎えました。20時20分、規定により、千日手成立です。

 叡王戦七番勝負の規定では、千日手は休憩の後、同日指し直しとなります。

 対局者以外の関係者には、とかく嫌われがちな千日手や持将棋。しかし個人的な見解を無責任に言えば、筆者はそれらが大好きです。ファンの皆さまもそうでしょうか。これぞ負けない永瀬将棋。楽しくなってきました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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