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杉本昌隆八段(51)藤井聡太七段(17)竜王戦3組決勝終了後、師弟インタビュー全文

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

――(報道陣からの質問)師匠との久々の対局だったんですけれども、改めまして、どういうふうな気持ちで指しておられたのか、お聞かせいただけますでしょうか。

藤井「竜王ランキング戦3組決勝という大きな舞台で対局できることは非常に楽しみにしていました。また、前回(2018年2月、王将戦一次予選)の対局は持ち時間3時間だったんですけど、今回は5時間ということで、より一手一手じっくり指すことができたかなという気がします」

――竜王戦ではランキング戦4期連続優勝という新記録でした。

藤井「毎年、竜王戦(各組)優勝は一つの目標にしていますので、達成できたことはうれしく思っています。また、今まで決勝トーナメント(本戦)でなかなか活躍できていないので、今期こそはしっかり活躍できるように頑張りたいな、というふうに思っています」

――竜王戦、棋聖戦、王位戦と重要対局で立て続けに勝たれているんですけれども、ご自身んで好調の要因はどのように考えておられますか?

藤井「2か月弱対局がない状況が続きましたけど、その間に自分の将棋を見つめ直すことができたのがよかったのかな、というふうには感じています」

――いちばん近いのは棋聖戦ですが、タイトル奪取に向けた意気込みをお聞かせ願いますでしょうか。

藤井「五番勝負なのでまだ始まったばかりですけど、第2局以降もいい将棋を指して、タイトルに近づけるよう頑張りたいなというふうに思っています」

――杉本八段にうかがいます。藤井七段と久々の公式戦、2度目の対局ということだったんですけれども、どういうふうなことを考えて、どういう気持ちで指されておられたんでしょうか。

杉本「竜王戦のランキング戦の決勝戦ということで、大きな舞台で、また藤井七段と対局ということで、非常に気合の入る条件がたくさん揃った対局だなというふうに思いました」

――今日は残念ながら敗れてしまったわけですけれども、ご自身は決勝進出ということで2組昇級。この点はいかがですか。

杉本「決勝戦の藤井七段含めて1回戦から、十代から四十代までの棋士と一人ずつ対局をしたと思うのですが、五十代の自分でも戦えているというのが収穫でした」

――藤井七段にもうかがったんですけれども、弟子の藤井七段は重要対局を勝ちきっておられるんですが、そのへんの好調の要因は師匠から見てどのように考えていらっしゃいますか?

杉本「(少し笑いながら)好調というか、まあ順調なのかな、という気はしますね。好調というには、もうずっと好調なので。着実に成長しているなと感じました」

――今日の和服の話なんですけれども、藤井七段は棋聖戦の第2局は和服を着られるというふうにうかがったんですが、杉本八段からのアドバイスは?

杉本「『和服はすごく暑いから、対局中、気をつけるように』ということを・・・そうですねえ。将棋で指導することはもうだいぶ前からありませんけど、あとで和服のたたみ方でもアドバイスしようかなと思ってます(笑)」

――藤井七段にお尋ねします。師匠の杉本八段が和服で登場されたわけですけれども、どういうふうに思っておられたんでしょうか。

藤井「やはり・・・少し驚きはしたんですけど・・・今日の将棋への思い入れというか、その気迫というようなものを感じました」

――杉本八段、それを聞かれていかがですか。

杉本「何度も答えてますけど、今日の対局というのは非常に大きな一番でしたし、対戦相手が弟子の藤井七段ということで、ここで気合を入れなければ、入れる場所がないので、自分にできる万全の状態で臨むのが藤井七段に対する礼儀だなと思いました。

――(藤井七段に)杉本八段が和服を着られたのは気合の表れだというお話がありました。藤井七段、まだまだこれから重要対局が続くわけですが、師匠の気合を感じて、今後の戦いに向けて何か受け取るようなものはあったのでしょうか。

藤井「やはり、和服に関してもそうですし、将棋の方も一手一手力がこもっているというふうに感じたので・・・。これから大事な対局が続くので、そういう気持ちを忘れずに指したいなというふうに思います」

――(杉本八段に)今回、決勝で対局したということは杉本八段がバリバリのトーナメントプロであることを改めて証明したような形になったかと思います。いま51歳になられてタイトルというものにどんな気持ちを抱かれておるのでしょうか?

杉本「うーん、そうですね・・・。私の世代でタイトルうんぬんというのはおこがましいかもしれませんが、現役である以上、いくつになってもタイトルは目指していますし、今日は自分の目標に向かうための第一歩でもありました。結果は、自分としては残念ですけど。今年の自分の目標が一つなくなってしまいましたけど・・・。隣りにいる藤井七段がこのあと竜王戦、どれだけ勝ち抜いてくれるかというのは、非常に楽しみにしています」

――(杉本八段に)初手、ちょっと時間がかかったみたいなんですけれども、何か思われていたこととかあったんでしょうか。

杉本「お茶を買いにいったというのが一つありまして(笑)。まあ、それはおいといて、初手にちょっと時間をかけることは今までもよくありまして。改めて将棋盤の前に座って、気合を高めていくというのが自分のスタイルなので、藤井七段の初手を見てから、一度席をはずして、気合を高めてからもう一度、盤の前に座りました」

――何か盤をはさんで藤井七段の成長ぶりを肌身に感じたようなことはございましたか?(師弟戦は)2年3か月ぶりなんですれど。

杉本「2年前も強かったんですけど(笑)今回もしっかり指されたな、という気はしましたね。持ち時間が今回は5時間と長かったので、そういった意味で自分も全力で力を出すことはできましたし。それでも自分の攻めが届かなかったので、改めて、どんな展開になっても対応できる藤井七段の成長ぶりというのは感じました」

――(藤井七段に)師匠の方なんですけれども、昼間うなぎを食べられて、夜に珍豚美人(ちんとんしゃん)。けっこう、がっつり系を食べはったんですけれども、感じることはありました?

藤井「そうですね・・・(苦笑)。昼にうなぎを食べられているというのはわかったんですけど、夕休の時は盤上に集中していて、師匠が何を頼まれたかというのは知らなかったので。それに関してもそうですけど、一日を通して対局に向かう姿勢というのも教えていただいたのかな、という気がします」

――(藤井七段に)今日の将棋について、どのあたりで手応えを感じられました?

藤井「少し序盤から中盤にかけて自信のない展開が続いていたかなと思ったんですけど、(75手目)▲7四桂と反撃したあたりでなんとか少し好転したのかなというふうに感じました」

――大事な対局が続いてます。体調管理と、ご自身の研究とか、学校の勉強の方もあると思うんですけども、その部分について何か不安要素なり、もしくは手応えなりは、どう感じられますか。

藤井「スケジュール的にも今までに経験したことがないぐらいに忙しいという感じにはなっていますけど、体調に気をつけていい状態で対局に臨めるようにしたいなというふうに思っています」

(6月20日夜、大阪・関西将棋会館にて)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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