Yahoo!ニュース

黒いランニング用マスクで凄み十分の渡辺明挑戦者(36)56手目を封じ、名人戦第1局1日目終了

松本博文将棋ライター
(戸田家所蔵の盤覆い、2005年筆者撮影)

 豊島名人先手で戦型は角換わり腰掛銀となりました。

 47手目。豊島名人は守りの銀を中段四段目に上がります。

 豊島名人が席をはずした後、渡辺三冠は記録係に頼んで棋譜を手にし、目を通します。高段者ならば当然、その局面に至るまでの指し手は頭の中に入っていますが、棋譜を目にして改めて流れを確認することはあるそうです。また、消費時間をチェックすることもできます。

 渡辺三冠はずっとつけていた白いマスクをはずします。豊島名人が席に戻ってきた後も、しばらくマスクをはずしたまま読みにふけっていました。

 48手目。渡辺三冠はちょうど30分の消費で2二の地点に玉を入城しました。中住居(5八)にかまえる豊島玉とは対照的です。

 その後、渡辺三冠は黒いランニング用のマスクを着けました。

 凄み十分の出で立ちです。観戦者からはいろいろな声が上がっていますが、筆者は時代劇などで口元を覆う出で立ちで演じられている、名将・大谷刑部吉継を連想しました。

 渡辺三冠は4月22日のブログで次のように記しています。

自分も4月は1回も電車に乗らずに終わりそうですが、個人で気を付けることと言えば「ジョギング、散歩でもウイルスをまき散らす可能性」という記事を読んだので、走ったり散歩する際はスポーツ・ランニング用のマスクを着用したいと思います。これは普通のマスクより息が楽なもので、ジョギング・散歩は欠かせないという方は検討してみてはいかがでしょうか。

出典:渡辺明ブログ

 55手目。時刻は18時前。豊島名人は自陣四段目に角を打ちました。斜め四方に利く攻防の要所で、この角のはたらきが今後の大きなポイントとなりそうです。

 渡辺二冠は考慮中に、黒いマスクをはずし、しばらくはそのままで考えていました。そして今度は元の白いマスクに戻しました。

 18時30分。手番の渡辺三冠が56手目を封じることが決まりました。盤側に座る立会人・福崎文吾九段が次のように告げます。

「18時半になりましたので、次の手は指さずに封じ手となります」

 一呼吸を置いて、渡辺三冠が盤側の方を向いて声を発しました。

「じゃあ封じます」

 渡辺三冠は立ち上がり、福崎九段から封じ手記入用紙、封筒などを受け取って、別室に移動しました。

 渡辺三冠は別室で封じ手を記入した後、3分弱で対局室に戻ってきました。豊島名人が2通の封筒を受け取り、赤ペンでサインをします。

 渡辺三冠が福崎九段の方に手を伸ばし、封筒を預けて10秒ほど静止。ここが報道陣にとっては撮影ポイントとなります。

 そして1日目の対局が終了しました。中盤の難所で、形勢はまったく互角と言ってよさそうです。

 明日2日目は9時から始まります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事