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A級以上28期の羽生善治九段(49)新A級・菅井竜也八段(28)との相穴熊戦を制して白星スタート

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月8日。東京・将棋会館においてA級順位戦1回戦▲菅井竜也八段(28)-△羽生善治九段(49)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は22時36分に終局。結果は160手で羽生九段の勝ちとなりました。

 A級28期目の羽生九段は白星スタート。今期からA級初参加となる菅井八段は黒星スタートとなりました。

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レジェンド羽生九段、今期好発進

 対局場は東京・将棋会館。岡山県在住の菅井八段にとっては遠征となります。

 将棋会館の対局室はすべて格付けがされていて、本局がおこなわれる高雄の間は、上から2番目の格となります。この日、壁一枚をへだてた最上格の特別対局室では、棋聖戦五番勝負第1局▲藤井聡太七段-△渡辺明棋聖戦がおこなわれていました。

 王位戦リーグ紅組では現在、藤井七段がトップ。それを羽生九段と菅井七段が追いかける展開となっています。

 羽生九段-菅井八段戦。本局の後には13日の王位戦リーグ最終局でもおこなわれます。

 順位戦、王位戦リーグのように、リーグ戦の場合はあらかじめ先後が決められています。

 A級順位戦では菅井八段が先手となりました。戦型は5筋位取り中飛車です。

 羽生九段は2枚の銀を手早く中段に繰り出します。菅井八段も銀を2枚並べて対抗。中央で両チームの主力が対峙してスクラムを組み合うような格好となりました。

 ではそのまま中央で戦いが始まるのかといえば、そうとも限らないのが面白いところ。両者ともに駒を引き上げて、相穴熊になりました。

 先に動いたのは羽生九段でした。穴熊がまだ組み上がっていないにもかかわらず、好機と見たか、羽生九段が駒をぶつけて本格的な戦いが始まりました。

 羽生九段が前に出ていくのに対して、菅井八段は引いて受けます。このあたりで羽生九段がペースをつかんだようです。

 夕食休憩までの段階で手数は80手。持ち時間6時間の順位戦としては、早い進行です。

 飛車角交換で飛車を手にした菅井八段は、飛車を羽生陣に打ち込んで追い上げました。

 羽生九段は菅井八段の攻めを受け続けた後、再び攻めに出ます。羽生九段がややリードして、互いに穴熊の金銀を削り合う終盤戦を迎えました。

 はがされては埋める相穴熊らしい終盤戦。菅井八段は技を駆使して龍(成り飛車)を羽生玉の近くまで寄せますが、羽生九段は冷静に駒を埋め続けて対応。菅井八段の龍が生け捕りにされるに至って、形勢は羽生九段勝勢となりました。

 菅井八段は勝負を捨てず、端に香香香の三段ロケットを仕掛けて最後の突撃を試みます。そしてここでも羽生九段は冷静に対応。最後は逆に王手で香を打ち返して、160手の熱戦に終止符を打ちました。

 17歳で最年少棋士の藤井七段が快進撃を続ける中、A級順位戦では佐藤康光九段(50歳)、次いで羽生九段(49歳)と将棋史上に残る黄金世代が気を吐く形となっています。

 名人位9期を含めA級以上28期のレジェンド羽生九段。前期A級終盤では危うく降級の可能性もありましたが、今期まずは幸先のよいスタートを切りました。

 一方の菅井八段は残念な敗戦。とはいえ、対羽生戦の対戦成績はこれで7勝4敗と、依然大きく勝ち越しています。

 13日には王位戦リーグ最終局で再び相まみえる両者。今度は羽生九段が先手番です。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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