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A級通算24期の豪腕・佐藤康光九段(50)今期順位戦開幕戦で広瀬章人八段(33)を攻め倒し圧勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月2日。東京・将棋会館においてA級順位戦開幕戦▲佐藤康光九段(50歳)-△広瀬章人八段(33歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は翌3日0時5分に終局。結果は119手で佐藤九段の勝ちとなりました。

 佐藤九段はこれで今期順位戦各クラスを通じて一番乗りの勝利を挙げました。

康光九段の豪腕健在

 本局が配されたのは東京・将棋会館で最も格式が高い特別対局室です。

 棋聖戦準決勝2局は隣りの大広間でおこなわれていました。結果は既報の通り、永瀬拓矢二冠と藤井聡太七段が勝ち上がっています。

 佐藤康光九段と広瀬八段の過去の対戦成績は佐藤九段8勝、広瀬八段5勝。直近の対局は前期A級での対戦で、佐藤九段が勝っています。

 本局は佐藤九段先手で、戦型は相矢倉となりました。

 広瀬八段は△4三金左と、現代風のバランス重視の構えです。

 佐藤九段は、まずは▲6七金右と、金銀を密に組み上げるオーソドックスな金矢倉を完成させます。そこから広瀬八段が飛車先の歩を切ったタイミングで銀冠に組み替えました。

 じりじりとした間合いのはかり合いの後、本格的な戦いが始まったのは22時過ぎでした。持ち時間6時間と長丁場な、いかにも順位戦らしい進行です。

 戦場は広瀬八段の玉頭です。広瀬八段がしのげるか。それとも佐藤九段が豪腕でねじふせるのか。

 駒割は銀と桂桂の交換で広瀬八段が少し得をしています。広瀬八段の駒台には3枚の桂が並べられました。

 桂は一般的に、使い勝手の難しい駒です。広瀬八段は3枚の桂を、受け、攻め、受けの順に打ちつけました。しかし3枚目の桂がどうも、形勢を大きく損ねてしまったようです。

 広瀬八段の攻撃陣には桂が1枚。対して玉頭に桂が3枚密集して並ぶ格好となりました。

 佐藤九段は玉頭の3枚の桂を絶好の攻撃目標として、猛烈なパンチを浴びせ続けます。そして飛車を捨て、手にした桂を広瀬玉上部の急所に打ち据えて、一気に優勢を築きました。

 広瀬八段は飛車を手にしたものの、佐藤陣は銀冠の堅城が手つかずのまま。反撃のターンがなかなか訪れません。

 パンチを繰り出す手を止めない佐藤九段は、ただで取られるところに王手で角を打ちつけます。これもまた猛烈に重い一撃。

 取られれば佐藤陣内で封じられている角が飛び出して寄り形。広瀬玉はよろけるようにかわしましたが、そうすると桂をただで取ることができて決まっています。

 広瀬八段は最後に攻めの桂を動かして、形を作りました。対して佐藤九段はただで取られるところに金を寄せます。この金を取ってしまえば、寄せのスピードが速くなります。広瀬八段は金を取らず、また次の手も指さずに投了しました。

 現在50歳の佐藤九段。深夜の戦いの中、指し盛り33歳の広瀬八段を相手に豪腕健在を見せつけ、開幕戦を白星で飾りました。

 17歳のスーパールーキーがまた一歩、大棋士への道を踏み出した日に、50歳のベテランが衰えぬ力を披露する。これだから将棋界は面白いわけです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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