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ああその日は来た! 豊島将之名人(30)に渡辺明三冠(36)が挑む名人戦七番勝負は6月10日開幕決定

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月27日。名人戦主催紙の毎日新聞、朝日新聞から、これまで延期されていた七番勝負の開幕と、その日程が発表されました。

 例年であれば4月に始まる名人戦は、コロナ禍で開幕が延期されていました。

 待望の七番勝負がようやく始まる。多くの将棋ファンにとってうれしいニュースでしょう。

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 6月10日、11日に第1局がおこなわれる三重県鳥羽市の戸田家は、これまで何度も名人戦がおこなわれてきた老舗の旅館です。

 タイトル戦の番勝負がいよいよ始まるとなると、豊島名人、渡辺三冠は一気に忙しくなります。

 豊島名人は、延期されている叡王戦七番勝負の挑戦者でもあります。そちらの日程もほどなく発表となるのでしょう。

 渡辺三冠は棋聖位保持者として、6月8日から五番勝負が始まります。

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 名人戦、棋聖戦に加えて勝ち残っている王座戦本戦なども入ってくると、ぎちぎちのスケジュールとなりそうです。

 対局で密閉、密集、密接の「三密」はある程度避けることができるとしても、多くの棋戦で勝ち残る棋士は宿命として、日程の過密さだけはどうにも避けられないようです。

 将棋界の歳時記では、一年をかけておこなわれる順位戦が年度末に終わり、名人挑戦者が決まります。そして新年度、桜の咲く4月に名人戦七番勝負が開幕する。戦後はこのサイクルが確立し、繰り返されてきました。

 戦前の1935年。実力制名人戦が開始された時には、七番勝負ではなく、八段の棋士9人によるリーグ戦などによって名人の座が争われました。

 その開幕戦▲金子金五郎八段-△花田長太郎八段戦は6月16日、17日におこなわれています。将棋界の新しい時代が始まる時の高揚感を、観戦記者の樋口金信は次のように記しています。

 あゝその日は来た!!

 若葉を渡る風さわやかな昭和十年六月十六日午前十時五十六分、ここ東京丸の内蚕糸会館七階日本間の一室で「名人位決定八段リーグ戦」のトップを飾る花田対金子両八段の対局が開始された。

出典:樋口金信観戦記

 4月の名人戦開幕戦の記事といえば、だいたい冒頭で桜の花について触れるのが定跡です。6月のこの時節であれば、それが新緑になるのでしょう。

 今期名人戦七番勝負は、第4局で終わるワンサイドゲームにならない限りは、真夏の8月に決着がつきます。そんな名人戦を観戦するのはほとんどの人にとって、一生のうち、ただ一度きりかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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