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NHK杯将棋トーナメント1回戦 松尾歩八段(40)と出口若武四段(24)が対戦

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月26日。NHK杯将棋トーナメント1回戦▲松尾歩八段(40歳)-△出口若武四段(24歳)戦が放映されました。結果は135手で松尾八段の勝ちとなりました。

 松尾八段は2回戦で前期優勝の深浦康市NHK杯(九段)と対戦します。

関東の強豪と関西の若手の対戦

 松尾八段は順位戦はB級1組に所属してシード。このNHK杯も常連です。

 一方で若手の出口四段は難関の予選を突破して、初の出場となりました。

 松尾八段は先日、竜王戦2組準決勝で佐々木勇気七段と対戦。千日手から異例の後日指し直しとなりました。

 指し直し局は4月30日におこなわれることが発表されています。

 出口四段は昨年度末、棋王戦予選で藤井聡太七段に勝利しています。

 現在7連勝中(テレビ棋戦をのぞく)の藤井七段が直近に負けた棋士は出口四段といううことになります。

 ただし出口四段は棋王戦予選でその後、石川優太四段に敗れています。

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 この一次予選の表ひとつを見ても、本戦に勝ち進むまででも大変だということがわかります。昨年度、本田奎四段(現五段)が棋王戦初参加で一気に挑戦者まで勝ち上がったことはどれだけの快挙だったか、改めて伝わってきます。

松尾八段、安定した実力を発揮

 松尾八段は関東、出口四段は関西の所属と東西に分かれていることもあって、本局が初手合となりました。

 番組の画面上では、本局は3月下旬に収録されたことがアナウンスされていました。

 先手松尾八段は矢倉志向の立ち上がり。対して出口四段は飛車先の歩の交換を誘い、銀を手早く繰り出していく作戦を取りました。序盤から定型をはずれ、両者ともに構想力が問われる展開です。進んで松尾陣は腰掛銀、出口陣は雁木に組み替えられます。

 松尾八段が3筋の歩を交換したのに応じて、出口陣は銀立ち矢倉の形へと進展しました。位を取って上部に手厚い形ですが、逆にここが攻撃目標となることもあります。本譜もやはり3筋が争点となって、銀交換から本格的な戦いが始まりました。

 出口四段は相手の攻めに反発し、逆に飛車を攻撃目標として、うまく角を使っていきます。角も交換され、局面は大きく動きましたが、形勢はほぼ互角のようです。

 出口四段は松尾陣に角を打ち込んで、角銀交換の駒損で切り捨て、飛車を成り込んで龍を作ります。対して今度は松尾八段が相手の龍を目標にしながら反撃。一進一退の攻防が続きました。

 松尾玉の上部での戦いで、出口四段が突破口を見いだせるかというところ。松尾八段は出口四段の龍の動きを封じ込め、ここではっきりリードを奪ったようです。

 優位に立ってからの松尾八段の指し回しは自然で着実なものでした。歩を成ってと金を作り、そのと金で香と桂を取って駒得を拡大します。

 苦しくなった出口四段は非常手段的な手を連発して勝負を捨てません。しかし松尾八段に落着いて指されると、さらに差が開くことになりました。

 最後は松尾八段が満を持して決めにいきます。角を切り、ただで取られるところに銀を打つ手が鮮やかな収束。出口玉が受けなしになったところで終局となりました。

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 Aブロックのトーナメント表を見ると、これまでに勝ち上がっているのは屋敷伸之九段、山崎隆之八段、松尾歩八段。そしてBブロックでは先週、千田翔太七段が勝っています。これら4者は全員、前期、今期とB級1組に所属しています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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