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天才・藤井聡太七段(17)王位戦リーグ白組単独4連勝 王位挑戦権獲得まであと2勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月10日。王位戦リーグ白組▲菅井竜也八段(27歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は19時31分に終了。結果は112手で藤井七段の勝ちとなりました。

 3連勝決戦を制した藤井七段は、これで白組4勝0敗となりました。

 藤井七段は最終5回戦の阿部健治郎七段(0勝4敗)戦に勝てば5勝0敗。文句なしに白組優勝が決まります。

 また敗れた場合には4勝1敗となって、羽生九段-菅井八段戦の勝者(4勝1敗)とプレーオフを戦うことになります。

 白組優勝を果たすと、紅組優勝者と挑戦者決定戦(一番勝負)をおこないます。

 いずれにしても、藤井七段はあと2勝で木村一基王位への挑戦権を獲得することができます。

藤井七段、すさまじい斬れ味で強敵を降す

 新型コロナウイルス感染拡大が続き「緊急事態宣言」が発令された現在。岡山県の菅井八段、愛知県の藤井七段と、対局のたびに100km以上の長距離移動をともなう地方在住の棋士は、少なくとも5月6日までは対局がつかないことが決まりました。本局は両者にとって、対局延期前の最後の一局となります。

藤井「対局がおこなわれるからには、盤上に最善を尽くして戦おうという風に思っていました」

菅井「将棋以外のことはほとんどおこなわれていないと思うんですけど。スポーツにしても。まあでもその中で将棋を指せるっていうことは、幸せなことだな、と思います」

 両者は局後にそう語っていました。

 先手菅井八段の三間飛車に対して、藤井七段は居飛車で左美濃に。午前中に中盤の戦いに入り、互いに銀を取り合う激しい変化となりました。前例はあるものの、早くものっぴきならない進行です。

 午後の戦いで、藤井七段は持ち駒の銀を中段に打ちます。攻防に利いているのかどうか、難しいところのようにも見えましたが、中央付近をおさえて、まずは藤井七段がややリードしたようです。

 振り飛車の名手である菅井八段は、手練手管を尽くして差をつけさせません。盤面右側に戦力を集め、藤井玉の上辺からいやらしく迫ります。

「途中からはやや自信のない展開が続いていた」と藤井七段。難解な中盤が続き、リーグ天王山にふさわしい熱戦となりました。

 菅井八段が比較的早指しなのに対して、藤井七段は時間の消費が先行していきます。藤井七段ややよしという形勢で、残り時間はわずかに10分。対して菅井八段は1時間以上を残しています。これもまた、いつもの藤井七段のペースではあります。しかし観戦している藤井ファンにとっては、いつもの通り、気が気ではない進行でしょう。

 86手目。藤井七段は△1五歩と端をつっかけました。残り時間はわずかに5分。美濃囲いの急所を衝いた攻めではありますが、この端歩がここで通るかどうかは、微妙なところです。

 菅井八段は残り51分のうち5分を使って、歩を取り返しました。ここは藤井七段の主張が通った形。やはりわずかに藤井七段が優位を保っているようです。

藤井「△1五歩から端を攻めたのが結果的に功を奏したのかなという風に思っています」

菅井「苦しいところもあったと思いますし、少しチャンスが出てきたところもあったと思うんですけど、うーん・・・。そうですね、△1五歩と突かれた局面で、ちょっとわからなくなりましたね。まあ、少し形勢も苦しいのかもしれませんけど、ちょっとよくわからなかったです」

 菅井八段は歩を打って、自陣をにらんでいる相手の角筋を止めました。

 藤井七段はそのタイミングで猛スパートをかけます。まずは飛車を取らせる覚悟で銀を取りました。菅井八段は飛車と角、好きな駒を取れる格好となります。そこで角を取りました。

 さあ、菅井玉に寄せはあるか。藤井七段が菅井玉すぐそばの端から攻め込むのに対して、菅井八段は左辺への逃走路を開きます。

 藤井七段は端で飛と香の二段ロケットを実現。2枚目の角を取らせる間に、端を突破しました。

 藤井七段がややよさそうなものの、どちらが勝つのかはまだわからない白熱の終盤戦――。

 観戦者である筆者には、そう思われました。しかし藤井七段はあっという間に、菅井玉を寄せる形を作りました。

畠山鎮八段「きれいに斬れてますねえ・・・」

 最後は左右はさみ撃ちで、菅井玉は受けなしに。菅井八段はそこで駒を投じました。

 いつものことではありますが、筆者も観戦者の一人として、藤井七段のあまりの強さに呆然とするような思いがしました。

 藤井七段はこれで強敵の菅井八段を相手に2連敗のあと4連勝という対戦成績となりました。

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 元王位、新A級八段を相手にこの成績を残していることからも明らかな通り、藤井七段がこの先、タイトル挑戦、獲得をはたしても何ら不思議ではありません。

藤井「最終局も落ち着いて臨めればと思っています」

 藤井七段は局後、そう語っていました。しかし菅井八段、藤井七段、両者にとっては王位戦リーグ最終5回戦も含め、次の対局は最短でも5月7日以降となります。その点について、両者はどう思うのか。

藤井「しばらく対局が空きますけれど、しっかり実力をつけて、次の対局に臨めればという風に思っていますこういった状況で大変なことはあるかと思うんですけど、プレイヤーとしては次の対局でいい将棋が指せるように努力していきたいなと思っています」

菅井「少し時間は空いてしまうんですけど、せいいっぱい、がんばっていきたいなと思います」

 本局を観戦していたファンに対しては、両対局者より次のような一言がありました。

藤井「このような状況の中でご観戦くださいましてありがとうございます。自分自身は次の対局まで少し時間が空くことになりますけど、その間も精進して、また次の対局でいい将棋をお見せできればな、と思っています」

菅井「本当に大変な時に観戦してもらってたと思うので、それは本当に自分としても力になっていますので、せいいっぱいこれからもがんばっていきたいなと思います」

 コロナ禍が収束し、感染の懸念が払拭された上で、両スター棋士の対局が再び見られるよう、改めて祈りたいものです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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