ラーメンAFURI、日本酒メーカーの商標登録無効審判審決取消訴訟で敗訴の意味
昨年の8月に、ラーメンチェーンAFURIの運営会社が、「雨降」という日本酒を製造販売する吉川醸造という酒造会社に対して商標権侵害訴訟を提起したというニュースがありました(その時に書いた解説記事「ラーメンチェーンAFURIがジャンル違いの清酒メーカーに商標権侵害訴訟」)。両当事者が(おそらくは弁理士/弁護士の許可なく)「お気持ち」をネットで表明してしまったこともあり、炎上につながった案件でした。
この商標権侵害訴訟については、現時点で調べた限りでは特に情報が出ていません。一般に、日本の裁判では、終了後に一部の判決が裁判所のウェブサイトや専門誌で公開されますが、係属中の裁判の状況は当事者が公表しない限りわかりません。裁判所まで出向けば資料を閲覧できることもありますが、これも、当事者が事件番号等を公表してくれないと困難です。
しかし、AFURI社が吉川醸造の「雨降」という登録商標(第6409633号)(タイトル画像参照)に対して請求した無効審判の審決取消訴訟の判決が2024年5月16日にあり、判決文が公開されています。結論はAFURI社の敗訴(吉川醸造の登録商標は有効)です。
ここで注意していただきたいのは、この審決取消訴訟と商標権侵害訴訟は関連してはいますが、別の訴訟であるということです。審決取消訴訟に敗訴したからと言って商標権侵害訴訟に敗訴するとは限りません。Xで著名インフルエンサーが吉川醸造完全勝利のようなニュアンスで報告していることもあり、ごっちゃにならないよう願います。
商標権侵害訴訟は、原告(AFURI社)の登録商標に類似する商標を付した商品を被告(吉川醸造)が製造・販売することを禁止する(および損害賠償を請求する)ための訴訟です。あくまでもターゲットは商品(今回のケースでは酒)であることに注意してください。そして、前述のとおり、この訴訟は現在進行中と思われます(詳細は当事者以外には不明)。
審決取消訴訟は、AFURI社が吉川醸造の登録商標「雨降」が無効であるとして、特許庁に請求していた無効審判において、特許庁が無効ではないとの審決を出したことに対して、これを取り消すための訴訟です。そして、今回、AFURI社が敗訴したということは、吉川醸造の登録商標「雨降」が有効であることが知財高裁により確認されたことを意味します(AFURI社は最高裁に上告できますが事実上確定だと思います)。
では、今回のAFURI社敗訴は何を意味するのでしょうか?
吉川醸造は自社の登録商標「雨降」(第6409633号)と同一範囲内の使用であれば、AFURI社の商標権を行使されることはなくなりました(AFURI社が「”雨降”はわが社の登録商標”AFURI”と類似しているから商標権侵害である」と言っても認められない)。しかし、吉川醸造の商標使用パターンはこれだけではなく、瓶のラベルにおける「雨降」と英文字AFURIの組み合わせ、および、箱に英文字AFURIが大きく書かれたパターンもあり、AFURI社のプレスリリースではこれらが問題とされていることから、当然に商標権侵害訴訟の対象になっているでしょう。そして、これの使用パターンについては、今回の審決取消訴訟におけるAFURI社敗訴は直接的には関係ありません。
商標権侵害訴訟と(無効審判)審決取消訴訟の相違について説明しましたが、ちょっと長くなってしまったので、今回の審決取消訴訟自体の内容の解説は別記事にします。