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天衣無縫・佐藤康光九段(50)宿敵・羽生善治九段(49)とのA級最終戦も独創的な序盤戦術で戦う

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2月27日9時。静岡市・浮月楼においてA級順位戦最終9回戦一斉対局が始まりました。

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 既に挑戦を決めている渡辺明三冠の9戦全勝なるか? また残留を果たすのは誰か? ということで、熱い戦いが次第に佳境を迎えつつあります。

 ▲佐藤康光九段(4勝4敗)-△羽生善治九段(4勝4敗)戦は両者すでに残留を決めた同士の対戦。両者のファンは、比較的心穏やかに対戦を楽しめる状況とも言えます。勝った方が来期は順位上位となります。両対局者の間では、普段と変わらぬ真剣勝負なのでしょう。

 両者はこれまでに161局対戦し、羽生九段107勝、佐藤九段54勝という成績が残されています。

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 いつも独創的な序盤戦術の佐藤九段。本局は角換わり四間飛車からすぐに向かい飛車にスイッチする作戦です。そして早い段階で5筋の歩を突いたのが、早くも検討陣がざわめくような、独自の工夫でした。一般的な感覚としては玉の斜めのラインが開いてしまうために、この歩は突きづらいところです。

 羽生九段はその誘いに乗るかのように、角を打って王手をしました。佐藤玉は戦場から遠ざかるのではなく、戦場に近い5筋に戻ることを余儀なくされました。

 佐藤九段は対局中によく「ひえー」と声を上げる棋士として知られています。

 観戦している方こそ、本局のような順を見せられれば「ひえー」と言うしかありません。いかにも心細い・・・というのは一般的な感覚だと思われますが、佐藤九段にとっては別に怖くもないのでしょう。

 佐藤九段は角を打たせて飛車筋が縦に利かなくなったところで、桂をぴょんと跳ねて一歩をかすめ取ります。そして戦果を得たとみるや、さっと玉形の整備に移ります。このあたりは百戦錬磨の呼吸でしょう。将棋ソフトの判定では、佐藤九段が大いによし。独創的な序盤戦術で、あの羽生九段を相手に作戦勝ちを収めたようです。

 その先、佐藤九段がどう進めるのかが注目されました。そしてなんと・・・! 佐藤九段は実にオーソドックスな美濃囲いに組み換えました。途中からご覧の方は「今日の康光さんはここまでわりと普通だな!」と思うかもしれませんが、違うんですよ。ぜひ最初からの手順を並べ、「ひえー」と驚いていただければと思います。

 41手目まで進んで18時、夕食休憩に入りました。A級順位戦の持ち時間は各6時間。通例では、終局は夜遅くとなります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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