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「野球の基本は将棋にある」野球界の偉人・野村克也さんの将棋に関する語録

松本博文将棋ライター
(写真撮影:筆者)

 2月11日。日本野球界を代表する名選手にして名指導者であった、野村克也さん(享年84歳)の訃報が伝えられました。

 将棋界でも、加藤一二三九段が追悼の言葉を述べていました。

 野村さんは現役選手生活を45歳まで続けました。全盛期を過ぎてもなお、最後まで全力で現役生活を続けた代表的な例として、将棋界でも引き合いに出されることは多かったように思われます。

 また引退後も野球界屈指の「知将」として、長く指導者として活躍をされていました。

 2009年、当時現役棋士最年長の73歳だった有吉道夫九段は次のように語っています。

「あの年で激務の監督を続けるんだから、よほど野球が好きなんだろうね。実は同い年なんだけど…」。取材の冒頭、プロ野球・楽天の野村克也監督について語り始めた。一度は頂点を極めながら新興球団を率いて奮闘する姿に、自分が重なるらしい。

 過去8人だけの1000勝を達成し、棋聖位にも就いた名棋士が、5クラスある順位戦の最下位リーグに落ち、なお戦う。理由を聞かれる度、考えてみるが、最後に出てくる答えは一つ。「やっぱり将棋が好きだから」

出典:「山陽新聞」2009年6月3日

 野村さんの名語録はたくさんあります。精神的なことも、もちろん多く語っています。ただし実戦に臨むに当たっては、現役時代からデータを重視するリアリストだったところなど、現代の一流棋士と通じるものがあるようにも思われます。

 野村さんはしばしば、将棋を比喩として、野球を語っていました。

常々私は、日本における野球の基本は「将棋」にあると考えている。将棋は目先の手だけでなく、その先の相手の手を考えねば勝てない。こうした戦術の読み合いこそが、面白さに繋がっているのである。

出典:週刊ポスト2012年11月9日号

 この読みという点に関しては、次のような言葉もあります。

 

失策はしょうがないが、きのうの3点は全部防げる。先を考えてない。将棋は百何手先を考えるらしいが、野球は一手か二手でいい。

出典:「ぼやき・挑発…野村監督、口は『阪神再建』の元」「朝日新聞」1999年3月13日大阪夕刊

 上記の一語は、ミスをした後にミスを重ねない重要さを説いた、大山康晴15世名人のようでもあります。また大局観に明るい大山名人は次のように語っていたそうです。

「将棋は次の手だけわかればいい」

不世出の大棋士、大山康晴十五世名人の言葉は含蓄に富む。

出典:島朗『将棋界が分かる本』

 野村さんの愛弟子である古田敦也さんは、将棋の強豪として知られています。野球と将棋には、どこか共通するところが多いのかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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