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殺人的日程の中勝ち続ける「冬将軍」渡辺明王将(35)王将戦七番勝負第3局では角換わり早繰り銀を採用

松本博文将棋ライター
3つの番勝負を並行して戦う渡辺明王将(記事中の画像作成:筆者)

 2月8日。栃木県大田原市・ホテル花月において第69期大阪王将杯王将戦七番勝負第3局▲渡辺明王将(35歳)-△広瀬章人八段(32歳)戦、1日目の対局がおこなわれました。棋譜はこちらの公式ページをご覧ください。

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 対局は9時に始まり、18時、渡辺王将が63手目を封じて、1日目が終わりました。

 明日2日目は9時に封じ手が開かれて、対局が再開します。

戦型は角換わり早繰り銀

 将棋界の歳時記では、12月は竜王戦七番勝負の終盤戦。1月からは王将戦七番勝負、2月からは棋王戦五番勝負が始まります。そのため、この季節に多く勝ち星をあげるトップ棋士は「冬将軍」とも言われます。現在の将棋界における冬将軍といえば、渡辺王将のことでしょう。2月のスケジュールを見ると、対局日と、その前後の移動日でほぼ埋まっています。

 渡辺王将は一昨日、叡王戦挑戦者決定戦三番勝負第1局で、豊島将之竜王・名人に勝っています。

 休む暇もなく、翌日はすぐに移動日。そして王将戦の対局を迎えました。

 王将戦七番勝負は、第1局は渡辺王将の勝ち。第2局は広瀬八段の勝ちでした。

 第2局勝者の広瀬八段は、恒例の写真撮影に臨みました。

 これはかなりのサービスショットと言えそうです。渡辺王将もかつて、上半身を見せての温泉での撮影がありました。両対局者ともにサービス精神旺盛なので、どちらが勝っても、今後も期待できそうです。

 第3局の先手番は渡辺王将。戦型は角換わりとなりました。最近の将棋界ではこの後、銀を中央に構える「腰掛銀」(こしかけぎん)がよく指されます。本局では渡辺王将は銀を手早く右辺での攻めに使う「早繰り銀」(はやくりぎん)を採用しました。

 互いの玉は初期位置から一つ上に上がる「中住居」(なかずまい)の構え。堅さよりはバランスを重視しています。

 広瀬八段は「継ぎ歩」(つぎふ)から十字飛車をねらう、この形ではよく見られる反撃手段で、渡辺陣の左辺をへこませました。

 広瀬八段の攻めの銀は左辺から右辺へと転身します。渡辺王将は銀交換に応じず攻めの銀をしりぞき、間合いをはかりました。

 各棋戦で白星をあげ続け、勢いのある渡辺王将。盤上でも勢いよく、積極的に桂を跳ねていきます。広瀬八段は長考で桂交換に応じました。

 その次、広瀬八段は渡辺王将の飛車と桂が利いているところに、歩を突き出しました。この意表の一手が、長考によって得られた最善手のようです。

 渡辺王将は次の手を指さず、62手目を「封じ手」として、1日目の対局を終えました。

 現在の形勢はほぼ互角。明日2日目は午前中から、激しい戦いとなることが予想されます。王将戦七番勝負の持ち時間は8時間。通例では2日目の夕方から夜頃、勝敗が決します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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