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藤井聡太七段(17)今年度勝率8割到達! 棋王戦予選初戦で今泉健司四段(46)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月31日。大阪・関西将棋会館において第46期棋王戦予選2回戦▲藤井聡太七段(17歳)-△今泉健司四段(46歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は19時37分に終局。結果は173手で藤井七段の勝ちとなりました。

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 藤井七段は3回戦で出口若武四段と対戦します。

藤井七段、苦戦から逆転

 藤井七段は現在高校2年生。日本でこれほど忙しい高校生は、そう多くはいないでしょう。藤井七段は今週も平日に2回、対局がついています。火曜日には澤田真吾六段と対戦して勝ちました。

 藤井七段は現在のところ、大学進学は考えていないそうです。最近のインタビューでも、その旨を述べていました。

 藤井七段と今泉四段の過去の対戦成績は、互いに1勝です。

 ただし本局の前評判は、もちろんと言うべきか、藤井七段乗りが圧倒的でした。今泉四段もまた、そう感じていたようです。

 藤井七段は将棋を指し始めて以来、一貫して居飛車党。対して今泉四段は振り飛車党です。

 両者の初めての対戦となった2018年NHK杯1回戦では、先手番の今泉四段は中飛車。結果は最後、今泉四段の大逆転勝ち。

 2018年棋聖戦一次予選では後手番の今泉四段が四間飛車。藤井七段は居飛車穴熊に組んで、うまく攻めをつなげます。結果は藤井七段の勝ちでした。

 振り駒の結果、先手は藤井七段。振り飛車党の今泉四段は、三間飛車を選択しました。先日の棋士編入試験第3局では、スペシャリストの山本博志四段が指して注目を集めた戦形でもあります。

 今泉四段の三間飛車に対して、藤井七段は左美濃に組みました。そして互いに銀冠へと組み替えます。

 駒組が頂点に達したところで、藤井七段は熟考しました。

 もし両者がどちらも手を出さず、駒繰りを続けて同一局面が4回現れると、規定により千日手。指し直し局では先後が入れ替わります。もしそうなれば、先手番の藤井七段は少し損をします。

 藤井七段は三十分以上考えて、歩をぶつけて動いていきました。今泉四段は慎重に対処し、待機作戦を続けたます。そして藤井七段のさらなる動きを見て、カウンターを仕掛けていきました。この折衝で今泉四段は桂を得します。後手番の振り飛車としては、理想的な展開になっていたかもしれません。

藤井「仕掛けが難しい将棋で、少し苦しくなってしまって、かなり苦しい局面が長く続いた将棋だったと思っています」

今泉「(得した桂を)△4二桂を打ったところはまあまあかなと思うんですけど、そこから先がわからなかったですね」

 長い中盤戦が続く中、80手を過ぎたあたりでは、形勢は今泉四段がリードを奪っていたようです。また時間も差がついて、今泉四段が優位に立っていたのは間違いなさそうです。

 しかし、そこから崩れないのが藤井七段。今泉四段の陣形を不安定にさせて、差を広げさせずに終盤に入ります。

 今泉四段はわりと正直に思っていることが表に出るタイプです。「うーん」と言う声が出たり、時々何かつぶやくようにぼやきが出たりします。

 対して藤井七段は終始表情が変わりませんが、時折盤上に覆いかぶさるようにして、モニター上に頭が映ります。

 藤井七段は玉側の桂も捨てて、勝負と迫りました。

 残り時間は藤井七段が十分を切っているのに対して、今泉四段は1時間半以上もあります。

 最善を指し続ければ、今泉四段がいいはず。しかしその最善手が何なのかは、すぐにはわからない、きわめて難解な終盤戦。今泉四段の手が止まります。

 今泉陣には得した桂2枚が打たれ、合計4枚が配置されています。しかし玉から離れている2枚の桂のはたらきは、いま一つ。将棋は駒の損得だけではなく、効率その他、複雑な要素がからみあって形勢が決まります。形勢はいつしか、ほぼ互角に戻っていました。

今泉「いろいろあって・・・。でもまあ正直、あそこらへんの選択で最善手指せないっていうのもやっぱり、単純に力負けだと思います」

 藤井七段の玉も薄くなり怖いところ。藤井七段は怖がらずに前に出ます。桂を2枚取り返して駒台に乗せ、駒損も回復しました。一方で今泉四段の2枚の桂は、遠く取り残されています。そして形勢は藤井七段よしへと傾いていきました。

 しかし藤井七段もまた時間が切迫する中、終盤の大詰めで、明快な寄せ手順は逃したようです。そして藤井七段は4時間の持ち時間を使い切って、60秒以内に次の手を指さなければならない「一分将棋」の状態に入りました。

 今泉四段は依然1時間以上を残しています。しかしここでもまた、時間がいくらあっても最善手が難しい局面。相手の残り時間の兼ね合いで「時間攻め」として早く指した方がいい場合もあるでしょう。

 今泉四段は小考で気合よく、遊び駒となっている銀を引いて活用しました。

 その手が最善かどうかは、難しいところです。とはいえ、これは勝負師としての今泉四段のプレースタイルに属するところです。

 藤井七段は秒読みの中、2枚目の桂を今泉玉の上部に設置し、脇からしばる態勢を作りました。今泉四段は玉の下に金を打ちつけ、頑強に抵抗します。

 藤井七段は一度、自陣に手を戻しました。将棋ソフトの評価値を見る限りでは、そこで形勢は一気に巻き戻ったようです。今泉四段は難しい判断を迫られました。攻めに出るか、それとも守りに徹するか。

 結果的には、そこで攻めに出ていれば今泉四段に勝機が出ていたのかもしれません。しかし今泉四段は受けを優先しました。

 対して藤井七段の飛車の打ち込みが猛烈に厳しい。

 藤井七段は桂を取らせる代わりに今泉四段の角を取ります。今泉四段が再び桂を2枚取らされた時には、藤井七段が再びはっきりと優勢に立っていました。

 藤井七段は最後「寄せは俗手」での格言通り、一段目に金を打って寄せていきます。

藤井「そこで一手勝ちできるかなと思いました」

 最後は今泉四段の玉は即詰みに。

「負けました」

 173手目、銀打ちの王手を見たところで今泉四段は投了を告げた後、深いため息をつきました。

 前期は予選決勝で敗れた藤井七段。今期の抱負については、次のように語っていました。

藤井「前期は本戦に進むことができなかったので、まずは今期はそこを目指して戦っていければなと思ってます」

 今泉四段は勝負所で時間を残して早く指していた点については、次のように述べています。

今泉「正直、ちょっと勝負視点っていうのもあったんですけど。確かに、負けてしまうとそこが悔やまれるところというか。どうしても言われちゃうところなんで、まあ仕方がないですけど。ある程度、相手の時間ということも考えて、勝負のつもりでやったんですが。まあ、悪手を指したのは私の方だったとは思いますけど、ちょっと、どうやればいいのかは、今はわかってないので、それはこれから教わろうかなと思います」

 今泉四段がそう言った後、感想戦が始まりました。

【追記】感想戦終了後、今泉四段は次のようにつぶやいていました。

藤井七段、年間勝率8割の大台に

 藤井七段の今年度成績はこれで40勝10敗(勝率0.800)となりました。

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 藤井七段は全棋士中、勝率は1位。勝数では佐々木大地五段に並んで1位タイ。対局数では佐々木五段に次いで2位タイとなっています。

 また連勝記録は10に伸びました。今年度ここまで1位の記録は永瀬拓矢二冠の15連勝です。

 藤井七段はこの後、2月4日にC級1組9回戦で高野秀行六段と対戦します。勝てば最終10回戦を前にしてB級2組昇級が決まります。

 また2月11日には、朝日杯準決勝で千田翔太七段と対戦し、勝てば決勝に進みます。羽生善治九段に続いて、史上2人目の3連覇を達成できるでしょうか。

 また年度末には、3年連続での勝率1位を達成できるでしょうか。

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将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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