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異次元に強い藤井聡太七段(17)朝日杯3連覇まであと2勝! 準々決勝で斎藤慎太郎七段(26)に勝利

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月19日。朝日新聞名古屋本社朝日ホールにおいて朝日杯本戦2回戦(準々決勝)▲藤井聡太七段(17歳)-△斎藤慎太郎七段(26歳)戦がおこなわれました。14時に始まった対局は16時19分に終局。結果は147手で藤井七段の勝ちとなりました。

 藤井七段はこれでベスト4に進出。3連覇まであと2勝と迫りました。準決勝では千田翔太七段(25歳)と対戦します。

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これだけ強い藤井七段を誰が止められるのか?

 両者の公式戦初対局は2018年度王座戦本戦準決勝。この大きな一番を制したのは斎現七段で、斎藤七段はそのまま王座のタイトルにまで上り詰めています。また2018年の叡王戦本戦でも、斎藤七段が勝っています。

 直近の対局はつい最近、2019年12月27日におこなわれた王位戦予選決勝でした。

 まとめると、両者のここまでの対戦成績は斎藤2勝、藤井1勝となっています。

 両者は詰将棋を解くのがとてつもなく早いという共通点もあります。どれぐらい早いのか。たとえば藤井七段は41手詰を30秒かからずに解けるレベルです。

 5枚の歩を振る「振り駒」の結果、「と」が3枚出て、藤井七段の先手と決まりました。両者の過去の対戦では、いずれも先手番が勝っています。

 藤井七段は初手を指す前に、いつも通りお茶を一服。時間の計測はチェスクロックを使うため、秒単位で時間がなくなっていくところで、いつも通りの落ち着きを見せた後、初手に飛車先の歩を突きました。

 本局は角換わり腰掛銀となりました。両者ともによく指す、現代の最前線です。ほんの少しの形の違いが大局に影響を及ぼすため、両者が互いに最適なポジション取りを目指すのが特徴で、難解な駆け引きがおこなわれます。

 49手目を指す前に、藤井七段は6分を使いました。対して斎藤七段は50手目に11分を使っています。持ち時間40分のうち、これは少なくない消費時間です。事前に研究があれば時間を節約できたところでしょうから、このあたりから両者にとって未知の戦いとなった模様です。

 事前研究が両者ともに合致し、中盤の深いところ、あるいは終盤に入ったところまで一気に進んで、そこで互いに時間を使っての中終盤も見られます。

 一方で本局は、本格的な戦いが始まらないままに、両者ともにじりじりと時間を使う展開となりました。「悪くなる前に考えるのがプロ」とはしばしば言われるところです。中盤で差がついてしまうと、取り返しがつかなくなってそのまま、ということもあります。

 斎藤七段は何度か「そっか・・・」とつぶやきます。何が「そっか・・・」なのかはもちろん、観戦者にはわかりません。一方で藤井七段は無言のまま、盤上を見つめ続けます。

 観戦者には深遠すぎるやり取りが繰り返された後、70手を過ぎて本格的な戦いが始まりました。その時、残り時間は藤井七段10分、斎藤七段6分となっていました。

藤井「終始非常に難しい。攻め込まれてしまうような形で、自信がなかった」

斎藤「後手番になったので、待って待って、攻め合いのチャンスがあれば」

 80手を過ぎたあたりでも、ソフトが示す評価値はほぼ互角。どちらがペースを握っているのか、検討陣の間でも見解が分かれていました。そして難解な中盤が続くまま、藤井七段、斎藤七段の順で40分の持ち時間を使い切って、60秒以内に次の手を指す「一分将棋」となりました。

 手番を握った斎藤七段は、先に藤井玉に迫る形を作りました。対して藤井七段は正確に受けます。

 秒を読まれる中、斎藤七段は藤井玉をにらむ角を中央に2度据えます。しかしその2度目がどうだったか。藤井七段から巧みな手順で角を追われてみると、行き場がなくなってしまいました。藤井七段は角銀交換という大きな成果をあげ、一気に優位に立ちました。

藤井「こちらが迫る形になって、少しずつ好転してきたのかなと思いました」

斎藤「中盤で手順を間違えてしまった。早い段階で勝負どころを逃してしまった」

 藤井七段は得した角を相手陣に打ち込んで、馬(成り角)を作ります。一分将棋で秒を読まれる中、勝ち切るまでは大変なはずなのですが、藤井七段はいつもながらの安定感で、一度得た優位を自然に拡大していきます。

 受け続けてもジリ貧と見たか、斎藤七段は歩頭に桂を打ち込んで、最後の決戦を試みます。しかし藤井七段は正確に受けて誤りません。

 観戦者から見れば、もっと安全に勝ちを目指せそうにも思われたところ、藤井七段は最速の勝ちを目指します。最後は馬を切って、鮮烈な攻防の決め手を放ちました。斎藤七段はこの手を見て、美しい投了図を残すべく、潔く駒を投じました。

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 かくして藤井七段は、全棋士参加棋戦の朝日杯3連覇まであと2勝と迫りました。この棋戦に関しては、デビュー以来16戦全勝。なんとも形容しがたい、恐るべき強さです。

 藤井七段は準決勝で千田翔太七段(25歳)と対戦します。両者は2017年NHK杯1回戦、2019年王将戦一次予選決勝と2回対戦し、いずれも藤井七段が勝っています。過去の成績では藤井七段に分があります。しかし千田七段は現在、菅井七段や斎藤七段とともにB級1組でA級昇級を競い合う精鋭の一人です。ストッパーの役割を託すには十分な棋士の一人と言えるでしょう。

 藤井七段の2019年度成績は、これで37勝10敗(0.787)。記録部門の勝数ランキングでは、佐々木大地五段に並んでトップに立ちました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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