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藤井聡太七段(17)大熱戦の名局を制して朝日杯本戦2回戦進出 難敵・菅井竜也七段(27)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月19日。朝日新聞名古屋本社朝日ホールにおいて朝日杯本戦1回戦▲菅井竜也七段(27歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は12時24分に終局。結果は168手で藤井七段の勝ちとなりました。

 同時におこなわれた▲三浦弘行九段(45歳)-△斎藤慎太郎七段(26歳)戦は102手で斎藤七段の勝ち。

 斎藤七段と藤井七段はこの後14時から、2回戦で対戦します。

藤井七段、3連覇に向けて大きな勝利

 藤井七段は愛知県瀬戸市在住。現在は名古屋市内の高校に通っています。名古屋での対局はホームと言えるでしょう。過去の朝日杯の名古屋対局は、地元のスターである藤井七段にとって晴れ舞台となっています。

 菅井七段にとってはアウェイでの対局といえるでしょう。

 ただし前日には、やはりアウェイの立場で臨んだ深浦康市九段が、愛知県一宮市出身の豊島将之竜王・名人を相手に大熱戦の末に勝利を挙げています。盤上の勝負はまた別物だと言えるでしょう。

「公開対局は気合が入る」

 菅井七段はむしろそう語っていました。

 振り駒の結果、先手は菅井七段となりました。菅井七段は得意の中飛車から、穴熊に組む作戦を採用します。対して藤井七段は2枚の銀で慎重に菅井七段の飛車のさばきを封じながら、先攻を仕掛けました。

 藤井七段は交換した銀を、中段に飛車取りに打ちつけます。このあたりでは藤井七段がリードを奪ったようです。

 本局の解説は菅井七段と小学生名人の座を争い、少年時からよく知る佐々木勇気七段が務めていました。

佐々木「これは今まで、菅井さんのいいところが出てないですね」

 佐々木七段が少し首をかしげる展開でした。しかしここから恐るべき地力を発揮するのも菅井七段です。

 朝日杯はチェスクロック計測で持ち時間40分の早指し。藤井七段は62手目を指す前に時間を使い切って、あとは60秒未満で一手を指す「一分将棋」となります。対して菅井七段は16分も残しています。

佐々木「菅井さんは決断がいいですよね。苦しいと考えちゃうんですよ。その中でもぱっと指して」

 ここから菅井が追い上げていきます。

「菅井さんのいいところが出ています」

「堅いんですよね。上手いね」

「菅井さんは穴熊に組ませたくないランキングの上位トップ3に入るでしょう」

 佐々木七段からも称賛の声が上がりました。

 藤井七段は飛車も金も取れるところで、じっと成香を動かすなど、中盤から終盤にかけての攻防は難解を極めました。

 手番を握っても急所が見えづらいところで、藤井七段は穴熊の弱点である端に手をつけます。

佐々木「行ったあ! 切り札ですね。勝負手です」

 手番を握った菅井七段は、ついに藤井玉に迫る形を作りました。しかしそこからの藤井七段の受けが終始正確でした。

 菅井七段は忙しい終盤戦で、藤井玉から遠く離れた場所にと金を作ります。「と金の遅速」の格言通り、この遠いと金が最終的には藤井玉を守る金銀をはがすことになります。

 藤井七段はその間に、菅井七段の穴熊玉に迫っていきます。強者同士が指すと、なかなか将棋は終わりません。昨日おこなわれた豊島竜王・名人-深浦九段戦、深浦九段-千田翔太七段戦も、総手数が180手近い名局でしたが、本局もまた、藤井七段、菅井七段の持ち味が十分に出た名局と言っても過言ではないでしょう。

 解説陣から悲鳴に似た声が上がる白熱の攻防が最後まで続いた後、168手目。藤井七段は△1三飛と自玉の頭に飛を打ちつけます。これが先日のC級1組順位戦、小林裕士七段戦において藤井七段が指した▲5七角を思わせるような、盤石の受けとなりました。

 168手目△1三飛を見た後、菅井七段は投了。大熱戦についに幕が降りました。

藤井「途中からは苦しい局面が続いた。そこからは粘り強く指すことができた」

菅井「終盤ぐらいまではいい勝負だと思った。急所で間違えてしまった。そこからはダメになってしまった」

 両対局者は局後にそう語っていました。

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 藤井七段はこの後、14時から始まる2回戦で、斎藤慎太郎七段と対戦します。菅井七段に続いて、関西の若手実力者との連戦となりました。

藤井「次の対局も集中して粘り強く指せればなと思います」

 こちらの対局もまた、必見と言えるでしょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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