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高見泰地七段(26)C級2組順位戦で8連勝単独トップ 1敗勢は三枚堂達也七段(26)ら3人

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月16日。東西の将棋会館に分かれて、C級2組順位戦8回戦の14局がおこなわれました。既報の通り、▲桐山清澄九段(72歳)-△高見泰地七段(26歳)戦は高見七段の勝ちとなりました。高見七段は8連勝、桐山九段は8連敗となりました。

 高見七段は2012年度からC級2組に参加。前期2018年度は叡王のタイトルを獲得し、当然ながら昇級候補の本命格と見なされていました。しかし1回戦で、やはり若手強豪の石井健太郎五段に敗戦。最終的にはこの一戦が両者の明暗を分けることになりました。両者は8勝2敗の好成績で並び、順位の差で石井五段が昇級を果たしています。

 今期の成績上位である高見七段、三枚堂達也七段、佐々木大地五段、西田拓也四段は、いずれも前年8勝2敗で昇級を逸しています。今期もまた、2敗は順位が上位で届くかどうか、というところでしょう。

 高見七段は今年度、叡王のタイトルは明け渡しましたが、順位戦は8連勝。あと1勝で昇級決定です。

 高見七段は精鋭揃いの石田和雄九段門下。師匠のYouTube番組にも出演しています。

 石田九段のチャンネルでは、1月18日13時30分から、石田九段一門と木村一基王位のトークショーが生放送で放映されます。これは必見でしょう。

 高見七段と同様に7戦全勝で8回戦に臨んだのは牧野光則五段(31歳)です。対戦相手は3勝4敗の長岡裕也五段(34歳)。長岡五段は降級点2つを抱えているために、もし今期も降級点を取ってしまうと、C級2組からフリークラスに陥落となります。高見七段-桐山九段戦同様、それぞれ昇級と残留を目指す棋士同士のドラマチックな対戦は、順位戦ではしばしば見られます。

 ▲長岡五段-△牧野五段戦は角換わりで、長岡五段が序盤から積極的に動きました。

 中盤の難所で長岡五段は長考に沈みます。そして飛車の縦筋で歩を合わせ、交換して歩を打たれた後、じっと飛車を元の位置に戻します。いわゆる「一手パス」の手筋で、局面がまったく同じまま、相手に手番が渡されています。将棋は手番がある方が100パーセント有利というわけではなく、指す手が全てマイナスという局面もごくまれに生じます。

 手番を渡された牧野五段は駒を前に進めます。それに応じる形で長岡五段も動き、次第に局面が大きく動いていきました。

 優位に立ったのは、長岡五段の側でした。終盤戦、長岡五段は相手陣の一段目に金を打つ、意外な寄せ手順を見せました。これが好手で、受けづらい。以下は牧野五段に粘る余地を与えず、93手で勝利を収めています。

 長岡五段は4勝4敗となり、降級点回避に向けて大きな星を挙げました。残す2戦で2連勝すれば6勝4敗の勝ち越し。規定により、降級点を1つ消すことができます。

 牧野五段は今期初黒星を喫して7勝1敗。一歩後退とはなりましたが、依然昇級枠の3位以内には入っています。

 6勝1敗勢の中で順位最上位の三枚堂達也七段(26歳)は2勝5敗の富岡英作八段(55歳)と対戦しました。富岡八段はかつてB級1組に在籍し、A級まであともう一歩と迫ったことがあるベテランです。

 三枚堂七段の先手で、戦形は角換わりの最新形となりました。こうした展開は若手に分がありそうにも思われますが、中盤で巧妙な指し回しを見せ、優位に立ったのは富岡八段でした。

 非勢に陥った三枚堂七段は、自陣の二段目、一段目と低く歩を打ちつけ、辛抱を重ねます。三枚堂七段も追い上げて、勝負は終盤へともつれこみますが、そこで再び富岡八段がはっきりよくなったようです。しかし勝敗は決しないまま、長手数の大熱戦となっていきます。

 両者6時間の時間を使い切って、あとは深夜の闇試合。これぞまさに順位戦という展開です。そして手数が170手を過ぎる頃、ついに三枚堂七段が逆転に成功しました。

 終局時刻は0時9分。最後は総手数217手。三枚堂七段が大きな星を拾って、暫定2位に浮上しました。

 三枚堂七段もまた、石田九段が経営する柏将棋センターの出身です。

 C級1組で現在暫定2位の佐々木勇気七段、そしてC級2組の高見七段、三枚堂七段と、石田九段が育てた逸材が今期は揃って昇級となるかもしれません。

 7勝1敗はこれで三枚堂七段、牧野五段、古森悠太四段(24歳)の3人。

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 6勝2敗勢の順位最上位は佐々木大地五段です。棋王戦では挑戦者決定戦にまで進出し、王位戦では3期連続で予選を勝ち抜くほどの実力者が、C級2組でそう簡単に昇級はできないというあたり、順位戦の厳しさを物語っているようです。

 2敗勢順位下位の逆転昇級は、現実的には厳しそうですが、可能性がないわけではありません。

 また成績上位の戦いだけが順位戦ではありません。A級での名人挑戦権争いと同様に、C級2組で残留を目指す戦いにも大いなるドラマがあります。

 一年をかけて戦われる長いリーグ戦も、いよいよ最終盤。それぞれの立場で、それぞれの戦いに臨む棋士たちは、どのような春を迎えるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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