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藤井聡太七段(17)C級1組順位戦8回戦の対局開始 小林裕士七段(43)の一手損角換わりを受けて立つ

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月16日。関西将棋会館においてC級1組8回戦▲藤井聡太七段(7勝0敗)-△小林裕士七段(2勝5敗)戦が始まりました。

 両者はこれが4回目の対戦。同じ関西所属なので、比較的多く当たる関係と言えるでしょう。過去の対戦成績は藤井七段の3連勝です。

 ただし3回目の対戦となった2018年叡王戦七段予選では、藤井七段は終盤で敗勢に近いところにまで追い込まれています。最終盤、藤井七段は▲5七玉と早逃げをしました。これがただの受けではなく、2三にいる小林玉の上部を押さえてその詰みにまではたらくというミラクルな一手。小林七段が正確に指せば勝敗は不明でしたが、自然に攻めを続けたたため、盤上に配された藤井七段の駒が目一杯にはたらき、小林玉は飛車切りから17手で即詰みに。藤井七段の伝説にまた新たな1ページが書き加えらることとなりました。

 今期C級1組では7連勝でトップを走る藤井七段。全勝は藤井七段ただ一人で、成績上は1番上位です。ただし他に1敗勢が3人いるため、本局に勝っても、まだ昇級が決まるわけではありません。

 前期は8連勝の後で近藤誠也六段に痛恨の1敗を喫し、最終的には9勝1敗の好成績ながら、順位の差で昇級を逃すことになりました。今期は現状、昇級を争う棋士の中で順位でも最上位と有利な位置につけています。

 小林七段は長年に渡ってC級1組で安定した成績を誇りながらも、今期はやや不振。現在の成績では暫定的に下から6番目の位置で、もし本局も敗れてしまうと下から4番目となります。最終的に下位7人に入ってしまうと自身初の「降級点」を取ることになってしまいます(C級1組では降級点を2回取ってしまうと降級となります)。小林七段にとってもまた、大きな一番です。

 対局がおこなわれるのは、関西将棋会館4階の水無瀬の間。藤井七段は対局開始の15分ぐらい前に部屋に入り、下座に着きました。小林七段は5分ぐらい前に入室。駒を並べ終えて、10時に対局が始まりました。

 C級1組順位戦は全10局。どの棋士も先手5局、後手5局となるように、あらかじめ先後が決まっています。

 本局は藤井七段が先手。いつも通りお茶を一服した後、飛車先の歩を伸ばしました。

 後手番の小林七段は6手目、角を交換しました。「一手損角換わり」という戦術で、これがおそらく小林七段用意の作戦でした。

 将棋のセオリーとして、互いの角が初期位置の状態で交換をすると、相手が銀で取り返すモーションで「手損」をします。従来は序盤の手損は、文字通り損だと思われていました。しかし近年は、むしろ手が進まないことをメリットとする戦術が現れ、大きな成果を挙げています。後手番における有力な手段です。

 小林七段の一手損角換わりに対して、藤井七段は少しずつ時間を使って駒を進め「早繰り銀」で臨みました。そして積極的に仕掛けていきます。よく見るような形でありながら、端歩の関係などで、開始から二十数手の段階で、早くも前例のない局面となっています。

 27手まで進んだところで、12時、昼食休憩に入りました。

 持ち時間は各6時間。通例では、夜遅くに勝敗が決まります。

 なお本日はC級2組8回戦もおこなわれています。7連勝でトップを走っている高見泰地七段(26歳)は現役最年長の桐山清澄九段(72歳)と対戦しています。桐山九段はここまで7連敗と対照的な成績です。

 もし高見七段が勝てば、他者の成績次第で昇級が決まります。

 一方で桐山九段は敗れると3回目の降級点が確定します。

 一般的にはC級2組で3回降級点を取ると、フリークラスに降級となります。ただし60歳以上の棋士がC級2組から降級すると、他棋戦におけるいくつかの猶予規定はありますが、原則的には現役引退へと進むことになります。

 あともう少しで1000勝達成という名棋士の桐山九段。その可能性をつなぐことはできるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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