加藤一二三九段(80歳)がテレビドラマで紹介した「王手は追う手」という将棋の格言は実生活でも役に立つ
2020年1月1日。加藤一二三九段が満80歳の誕生日を迎えました。
数え年では81歳。81は将棋のます目の数と同じですので、将棋界では81歳を「盤寿」と称しています。
現役引退後も多方面で活躍を続ける加藤九段。1月3日夜に放映されたドラマ『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日)にも出演していました。
課長さんもかなり将棋に詳しいようです。
具体的に筆者がいま考えた将棋の局面(部分図)で見てみましょう。
問題1図は後手玉をどう寄せるか、という局面です。
詰みがあるのならば詰ますのがベストですが、この場合はどうでしょうか。
すぐに目につく▲1二銀と打つ手は△2二玉と上がられてつかまりません。さらに▲2三銀打と追うのも△3三玉と逃げられます。
「王手は追う手」の典型的な例となり、失敗です。
問題1図ではじっと▲2三銀と打つのが正解です。
これで後手玉は受けがありません。△2二金は▲1二銀打△同金▲同歩成(あるいは同銀成)までです。
問題2図も同様に、後手玉をどう寄せるか。
▲4一金打は△2二玉と上がられて「王手は追う手」となります。
ここでは代わりに▲1二金と「まちぶせ」するのが手筋です。
左右はさみうちの形になって、次の▲4一金打、あるいは▲2一金打を防ぐことができません。
以上はやさしい例ですが、その基本を発展させていくと、驚くような高度な技も現れます。
1988年度NHK杯▲羽生善治五段(当時)-△加藤一二三九段戦は伝説の名局として知られています。現在ではAbemaTVで公開されていますので、未見の方はぜひご覧ください。
羽生五段は王手をかけてせめたくなるところ、相手玉の逃げ道をふさぐ華麗な捨て駒を放ちました。それが▲5二銀という歴史的な妙手です。
金銀を何十枚、何百枚、盤面を埋め尽くせるほどに持っていれば、順番に王手で打っていけば、いずれ玉は詰みます。しかし現実には、数枚あるかどうか。限られた手持ちの駒を最適な場所に配置して、最大限いかすことを考えなければなりません。
局面が難しく、時間もそれほどないという状況になれば、どうしても「王手」という直接手を選んでしまうことは、上級者でも多くあります。そこをじっとこらえて、効率よく駒を使い、次に厳しい決め手を指すという姿勢で臨むと、将棋ではうまくいくことが多いようです。あるいは、実生活でも同様でしょうか。
逆に玉を攻められる立場からすれば、危険を感じたらいち早く逃げ出すことは好判断となることも多い。
「玉の早逃げ八手の得」
という格言がそれを表しています。相手がむやみな王手をかけてきたら、逆にありがたいと思える心の余裕を持ちたいものです。