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渡辺明三冠(35)A級順位戦6連勝! 初の名人挑戦に向けて大きく前進

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月25日。東京・将棋会館においてA級順位戦6回戦▲渡辺明三冠(棋王・王将・棋聖)-△広瀬章人八段戦がおこなわれました。10時5分に始まった対局は23時40分、109手で渡辺三冠の勝ちとなりました。

 勝った渡辺三冠は6勝0敗。初の名人挑戦に向けて、大きな一番を制しました。

 敗れた広瀬八段は4勝2敗となりました。

渡辺三冠、天王山の一局を制す

 両者の過去の対戦成績は渡辺13勝、広瀬11勝。

 2019年2月から3月にかけておこなわれた棋王戦五番勝負では渡辺棋王に広瀬竜王(当時)が挑戦し、渡辺棋王が3勝1敗で防衛を果たしています。

 2019年度は将棋日本シリーズ・JTプロ公式戦の決勝で対戦し、渡辺三冠が勝って優勝を果たしています。

 渡辺三冠は20日におこなわれた竜王戦1組ランキング戦1回戦において、佐藤和俊七段に敗れ、連勝が12でストップ。今期は豊島将之竜王・名人以外に、初めて土をつけられることになりました。それでも依然、勝率は8割を超え、ランキングではトップを走っています。

 渡辺三冠はA級順位戦でも好調です。

【前記事】

渡辺明三冠(35)A級4連勝 過去順位戦で全敗の羽生善治九段(49)を降す

 順位戦で過去に勝てていなかった羽生九段にも勝つなど、ここまで5連勝。前期B級1組から数えると、順位戦17連勝中です。A級は今期で通算9期目。タイトル合計23期という実績を考えれば、過去に名人戦に登場しなかったのが不思議なぐらいです。

 広瀬八段は竜王を失冠したものの、1月に開幕する王将戦七番勝負では渡辺王将に挑戦することが決まっています。棋王戦では若手の本田奎四段、佐々木大地五段に敗れ、2年連続での挑戦はなりませんでした。

 広瀬八段はA級5期目。過去にはプレーオフにまで進んだことはあるものの、名人挑戦の経験はありません。今期はここまで4勝1敗と好調。本局は暫定1位と2位の対戦で、今期A級の天王山とも言える一局でしょう。

 渡辺三冠先手で、戦形は角換わり腰掛銀。現代将棋界の重要テーマの一つとも言うべき局面へと進みました。両者ともに研究は深く、ほとんど時間を使わずに飛ばします。そして渡辺三冠が51手目で新しい手を指して、そこからは両者が時間を使い合う、濃密な中盤戦となりました。

 気持ちよく攻めているのは、先手の渡辺三冠です。相手玉を戦いの最前線である盤面中央で露出させることができます。一方で後手の広瀬八段は桂を1枚得して、受けを続けながら、どこでカウンターを繰り出せるか。

 途中で優位に立ったのは、攻めながらポイントを挙げ続けた渡辺三冠でした。しかし広瀬八段も2枚の角を自陣に打って、ギリギリのところで耐えます。そしてついに反撃の余裕を得て、勝敗不明の終盤戦に入りました。

 広瀬八段は銀を自陣に打ってなおも受けるか、それとも銀を相手陣に打ち込んで攻めるかという分岐点で、受けを選びました。そして受けを選んでいます。結果的には、ここでの判断がどうだったか。渡辺三冠はゆるまず攻め続けます。そして数手進むと、渡辺三冠が明快な一手勝ちの局面を作っていました。

 最後は広瀬八段が形を作り、渡辺三冠が広瀬玉を詰め上げて終局となりました。

 渡辺三冠はこれでA級6連勝です。(順位戦は18連勝)

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 初の名人挑戦権獲得に向けて、天王山とも言える一局を制した形となりました。

 一方で広瀬八段は4勝2敗。トップの渡辺三冠には星2つの差をつけられています。しかし三浦弘行九段と並んで、まだ2位の位置。ここからの逆転も十分に考えられます。

 渡辺三冠の今期勝率は0.848(28勝5敗)。中原誠16世名人が1967年度、五段当時に打ち立てた歴代最高勝率0.855(47勝8敗)の更新の期待もかかるところです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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