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朝日杯5回優勝の羽生善治九段(49)今期二次予選1回戦で三枚堂達也七段(26)に勝利

松本博文将棋ライター
(画像作成:筆者)

 12月19日。東京・シャトーアメーバにて朝日杯将棋オープン戦二次予選1回戦▲三枚堂達也七段(26歳)-△羽生善治九段(49歳)戦がおこなわれました。棋譜はこちらの公式サイトをご覧ください。

 14時に始まった対局は15時50分に終局。結果は96手で羽生九段の勝ちとなりました。

 羽生九段は19時からおこなわれる二次予選決勝で屋敷伸之九段と対戦します。

羽生九段、後手番で一手損角換わりを採用し快勝

 2007年に始まって、今年度で13回目を数える朝日杯将棋オープン戦。持ち時間40分という早指しの設定が、大きな特徴です。

 羽生九段は過去に5回優勝と、本棋戦でも抜群の成績を誇っています。

 優勝回数で羽生九段に続くのは、現在2連覇中の藤井聡太七段。2017年度準決勝、羽生竜王、藤井五段という肩書で両者が対戦した際には藤井五段が勝って、決勝進出。そのまま優勝まで駆け上がりました。

 今年度の本戦トーナメントでは、現在2連覇中の藤井七段を止める棋士が現れるのか。それとも過去に羽生九段しか達成していない3連覇が実現されるのか。やはり藤井七段の動向が、大いに注目されることでしょう。

 本局は本戦出場を目指しての戦いです。

 三枚堂七段は若手実力者の一人。今年9月に竜王戦2組昇級を決め、段位も七段に昇段しています。

 振り駒の結果、先手は三枚堂七段。後手番の羽生九段は、あえて手損をする「一手損角換わり」の作戦を取りました。これは羽生九段の得意戦法の一つで、きわめて高い勝率を誇っています。ただし羽生九段はこの戦形、逆に先手を持っても勝率が高いのでした。

 三枚堂七段は攻めの銀を中段に繰り出す「早繰り銀」の作戦を取ります。羽生九段は相手の攻撃陣をけん制する角を自陣に据えて応戦。中盤の戦いが始まりました。

 羽生九段の陣形は前線を高い位置に構えているので、少しでも間違えると「伸び過ぎ」としてとがめられます。一方で三枚堂陣は、押さえ込まれたまま圧倒されてしまう恐れもあります。

 一手のミスが即勝敗に結びつきそうな、きわどい中盤戦。三枚堂七段は桂を捨てる代償に駒の連携を一瞬不安定にさせ、その機に戦いの場を転じて、羽生九段の飛を攻めました。対して羽生九段は自然に応対します。

 羽生九段は飛角交換に応じながら、相手の手に乗って、玉を中段にまで逃げ出しました。三枚堂七段は桂を取り返して駒損は解消したものの、羽生玉は手厚い形で寄せづらく、形勢は羽生九段に傾きました。

 飛車取りにと金を作られて、急がされている三枚堂七段。手を止めることなく攻め続けますが、羽生九段は玉を軽く中段にかわしていきます。

「中段玉、寄せにくし」

 という格言の通り、羽生九段の玉は危ないようでも、耐久力があります。三枚堂七段からの追及が一段落したところで、羽生九段は満を持して三枚堂玉を寄せにいきます。羽生九段は勝ちを意識したのか、最後は手が震える場面も見られました。

 最後は三枚堂七段の玉が、大駒3枚の捨て駒を含む15手での詰み順に入ったところで終局。

「いやあ、ひどかったです」

 投了直後、三枚堂七段はそうつぶやいていました。

 羽生九段はこれで二次予選2回戦(決勝)に進出。1回戦を勝ち上がった屋敷伸之九段と本戦トーナメント進出をかけて対戦します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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