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豊島将之名人(29)31手詰を読み切って竜王戦七番勝負2連勝 広瀬章人竜王(32)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月23日・24日、京都市仁和寺で竜王戦七番勝負第2局▲広瀬章人竜王(32)-△豊島将之名人(29)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。23日9時に始まった対局は、24日19時8分に終局。結果は126手で挑戦者の豊島名人の勝ちとなりました。

 第3局は11月9日・10日、兵庫県神戸市・神戸ポートピアホテルでおこなわれます。

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 第1局とは先後を入れ替えて、第2局は広瀬竜王が先手。戦形は互いに飛車先の歩を伸ばして交換し合う、相掛かりとなりました。過去に広瀬竜王が後手番を持って実戦例のある形で、その時は広瀬竜王が勝っています。

 『徒然草』「仁和寺にある法師」の段で、兼好法師は「少しのことにも、先達はあらまほしきことなり」と書いていました。本局は1日目としては比較的早いペースで、両者ともに前例を踏まえ、その先も十分に調べていると思わせる進行でした。

 ほどなく後手の豊島名人が手を変えて、局面は未知の順へと進行しました。角交換から互いに角を持ち合い、すぐに打ち合い、また交換、そしてまた豊島名人が角を打つという高度な駆け引きが続いた後、まずは豊島名人がわずかにリードを奪ったようです。

「1日目がまずかったか」

「悲観しながら指していた」

 局後に広瀬竜王はそう反省していました。

 1日目は65手まで進み、非常に手の広い局面で、豊島名人の封じ手となりました。

「封じ手あたりは、もしかしたらよくする順があるかもしれないと思っていました」

 局後に豊島名人は控えめながら、自信があったことをうかがわせました。

 本日2日目9時、封じ手が開封されます。豊島名人が歩を成り捨て、初王手をかける手が盤上で示されて、対局は再開しました。

 戦機が熟したと見て、豊島名人は自陣に打ち据えていた大駒の角を切り、銀を取って、さらにその銀を捨てて、飛車を成り込みます。そして強力な「竜王」(竜、龍)を作りました。

「飛車が成り込めて、指せるのかもしれない」

 と、豊島名人はそう思ったそうです。対して、広瀬竜王は辛抱を続けました。

「チャンスが1回来るかどうか、その1回があったかどうか」

 局後に広瀬竜王は、本譜の進行をそう振り返っていました。そして龍を作られながらも玉を中段に逃げ越し、反撃に転じる順を得ました。

「2日目の昼休明けあたりから候補手がいろいろある中で、選択が難しかった」

 と豊島名人。残り時間が切迫していきます。実戦的には、広瀬竜王にもチャンスが来ていたのかもしれません。

 難解な終盤戦。さらに粘るか、あるいは豊島玉に迫るかという局面で、広瀬竜王は後者を選びました。

 最後、勝負の行方は、広瀬玉が「詰むや詰まざるや」という一点にしぼられました。そして長手数ながら、広瀬玉には詰みが生じています。

 残り時間5分だった豊島名人は1分を消費した後、王手を始めました。あわてた様子は微塵もなく、詰みを読みきったことをうかがわせます。

 豊島名人は攻撃の主力の龍を切り、大駒4枚はすべて広瀬竜王の手に渡りました。小駒だけで、詰むのかどうか。一見難しそうなところにも見えましたが、名人の手は渋滞なく進んでいきます。

 王手がかかり始めて13手目。総手数126手の局面で、広瀬竜王は投了しました。

 投了後は、広瀬玉が詰むには最長で18手ほどかかるようです。そうとなれば、全部で31手詰でした。

 第1局、第2局ともに、最終盤は「詰むや詰まざるや」でした。そして豊島名人は、第1局では自玉にかかる長手数の王手を逃れ、第2局では相手玉の長手数の詰みを読み切っての勝利でした。

 充実著しい豊島名人。初の竜王位獲得に向けて、さらに大きく前進しました。

「結果としてはいいスタートが切れたかなと思います」

 一方の広瀬竜王は、昨年の七番勝負と同様に2連敗のスタートとなりました。

「細かいミスが結構多いので、そのあたりで差がついてしまっている」

 そんな広瀬竜王の言葉がありましたが、第3局からはどう修正されていくでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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