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神童藤井聡太七段(17)完璧な名局で王者羽生善治九段(49)を降す 史上最年少王将位挑戦に大きく前進

松本博文将棋ライター
激熱の王将戦リーグ、藤井七段が一歩抜け出す(記事中の画像作成:筆者)

 10月21日。東京・将棋会館において王将戦リーグ▲羽生善治九段(49歳)-△藤井聡太七段(17歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は19時15分に終局。結果は82手で藤井七段の勝ちとなりました。

 リーグ成績は藤井七段が3勝1敗、羽生九段が2勝1敗となりました。

 また同じ部屋で並んでおこなわれていた▲糸谷哲郎八段-△三浦弘行九段戦は糸谷八段が勝ち、両者は1勝2敗となりました。

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天才少年、絶対王者を完勝で降す

 両者は過去に公式戦では1度、2018年2月、朝日杯の準決勝で対戦しています。結果は藤井現七段の勝ち。その時の持ち時間は各40分の「早指し」でした。

 それより持ち時間が長い対局としては、非公式戦ではありますが、2017年の「炎の七番勝負」は持ち時間各2時間でした。その対局も、藤井現七段の勝ちでした。

 本局は持ち時間各4時間。過去の対戦とはまた違う意味を持つでしょう。

 3日前の18日、藤井七段は糸谷八段に勝利。羽生九段は久保九段に勝利。両者ともに、すさまじいまでの強さを感じさせる勝ち方でした。

 本局は、羽生九段の先手で始まりました。

 戦形は、両者ともに飛車先の歩を伸ばして交換し合う、相掛かりに。羽生九段は角頭に歩を打たない形で、序盤早々から一触即発の変化を含んでいます。まだ前例のあるところから、羽生九段は新しい手を指しました。その先は、未知の局面。互いの地力が問われそうな展開となりました。

 羽生九段が駒を交換して動いたのに対して、藤井七段も機敏に応じます。そして飛車切りから駒得の成果をあげ、まずはリードを奪った格好になりました。

 藤井七段ペースとはいえ、消費時間にはかなりの差がつきました。そうした状況からも、絶対王者を相手に勝ち切るのは、もちろん大変なはずです。

しかし藤井七段は、着実にリードを広げていきました。気がつくと五十数手の段階で、藤井七段がはっきり優勢、あるいは勝勢と言ってもいいほどに差がついていました。

 終盤の攻防も、藤井七段の指し手は、ほぼパーフェクト。中盤で端に打った金まで最後は寄せにはたらくという、非の打ちどころがない完璧な内容。82手の短手数で羽生九段を降しました。

 双方が長手数戦い合う名局もあります。また、一方が完璧な内容で短手数で勝つ名局もあります。そうした意味で本局は、藤井七段の名局と言ってもいいのではないでしょうか。

 そして後で振り返ってみたとき、本局が将棋史上、重大な意味を持つ一戦となる確率は高そうです。

過去の挑戦権獲得ラインは平均4.79勝

 王将戦リーグが7人制となった1981年度以降のリーグ成績をたどってみましょう。

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 将棋界の精鋭7人が揃うためか、6戦全勝での挑戦権獲得は、わずかに6例しかありません。

 最も多いのは、5勝1敗での挑戦権獲得で18回です。次いで4勝2敗が14回となっています。

 王将戦リーグでは成績最上位者が複数出た場合には、現在では前年の順位上位2人がプレーオフ(挑戦者決定戦)をおこなうことになっています。

 そのため、二次予選を勝ち抜いてリーグ入りした5位(3人)は不利な立場となります。羽生九段、藤井七段はともに5位で、2敗となれば、かなり厳しい状況といえるでしょう。逆に、もしこの後、両者ともに全勝で5勝1敗となれば、両者がプレーオフ(挑戦者決定戦)で再度戦う可能性ももちろんあります。

 激戦が続く王将戦リーグ。最後はどのような形でフィナーレを迎えるでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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