Yahoo!ニュース

受け師・木村一基九段(46)耐え忍んで反撃し、佐藤天彦九段(31)に勝つ 竜王戦決勝トーナメント

松本博文将棋ライター
(2005年、竜王戦七番勝負に登場した際の木村一基現九段:撮影筆者)

 7月8日(月)。東京・千駄ヶ谷の将棋会館で竜王戦決勝トーナメント▲佐藤天彦九段(2組優勝)-△木村一基九段(1組3位)戦がおこなわれました。終了時刻は22時50分。結果は150手で木村九段の勝ちとなりました。

(画像作成:筆者)
(画像作成:筆者)

 木村九段はこれでベスト4に進出。準決勝対局料の165万円も獲得しました。

 準決勝では永瀬拓矢叡王(1組2位)-鈴木大介九段(3組優勝)戦の勝者との対戦となります。

木村九段、辛抱の後に攻防の名手

 10時。佐藤九段の先手で始まった対局は、角換わり腰掛銀に。あっという間に華々しい戦いとなる戦形ですが、本局では両者ともに互いに自陣で駒を繰り替え、持久戦となりました。

 ただし、両者の陣形は対照的です。佐藤九段は盤の左隅に玉を移動し、穴熊の堅陣に組み換えました。一方で、木村九段の玉は自陣中央近くに位置したまま。周りには、ほとんど守り駒がありません。

 夕食休憩前。その中央、玉に近いところから、木村九段が動きます。佐藤九段がそれに応じる形で、休憩明けに本格的な戦いが始まりました。

 戦いが始まれば、戦場から遠く堅い穴熊は、大きなアドバンテージです。その堅さを頼みに、佐藤九段は次々と鋭いパンチを繰り出します。

 木村九段は、時に強気に応酬しながらも、薄い玉形をケアし、要所では粘り強く、決定打を与えずに耐え続けます。陣形の差は大きく、木村九段が一度でも受け間違えていれば、あっという間に攻め切られて終わっていたでしょう。

 佐藤九段は的確に、着実に攻めをつなげます。相手の飛車を奪い、いち早く木村玉に迫る態勢を作りました。

 さすがの木村九段も、受けきるのは難しいのではないか。筆者の目には、そう映りました。しかしそこからが「千駄ヶ谷の受け師」の真骨頂でした。

 まずは相手の主砲の飛車の利きを、歩の中合(ただのところに王手で歩を打ち捨てる)のテクニックで、きわどくしのぎます。

 そして鮮やかに、歩頭に桂を跳ね出しました。自玉の逃げ道を開きながら、相手陣に迫る、攻防の名手。あっという間に体が入れ替わりました。驚くべきことに、気がつけばいつの間にか、木村九段が優勢になっています。

 最終盤、佐藤九段は最善を尽くして勝負に出ます。両者ともに、思わずぼやき声が口をついて出るほどに、最後の最後まできわどい戦いが続きました。

 一段目に落ち延びた木村玉の周りには、頼みとなる味方の駒はほとんどいません。その中で木村九段は見事に勝ちを読み切り、総手数150手の熱戦を制しました。

画像

 将棋界屈指の人気者である木村九段。現在は多くのファンの夢を背負って、悲願の初タイトルを目指し、王位戦七番勝負で豊島将之王位に挑戦中です。(現在、第1局を終えて、木村九段の0勝1敗)

 王位戦とともに竜王戦でも、木村九段のタイトル獲得の期待が高まりそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

松本博文の最近の記事